No.047 偽りの時間



「ルルーシュ、悪いんだけど、ちょっとだけお弁当分けてくれないかな……?」

どうやらスザクは弁当を忘れて来たらしい。
何か買えば、と言いかけると「財布も忘れた」そうだ。
まったく、ドジな奴だ。

「仕方ないな」

少しくらい食べなくても死にはしない。
しかしスザクの腹が鳴り続けてうるさいので、俺は弁当を分けてやることにした。
せっかく天気がいいから屋上で食べよう、というスザクの提案に従い、屋上へ向かう。
丁度誰もいなかったので、俺達は早速昼食にすることにした。

「なんだか久しぶりだね」
「そうだな」

俺から受け取ったサンドイッチを頬張りながら、スザクは笑う。
確かにスザクの言う通り、こうして顔を合わせ会話することすら久しぶりだ。
予定があわないだけでこうも顔を合わせなくなるものだ、と感心すらする。

「仕方ないさ、お前も忙しいんだから」

そう、仕方ないんだ。
スザクはスザクで色々と大変なんだから。

「でも、たまには顔を見せろよ?
ナナリーが心配するからな」

俺が少し意地悪く言うと、スザクは肩を竦めてみせた。
痛いことを言われた、という顔だ。
恐らく自覚があったのだろう。

「そうだね、分かってはいるんだけど……」

そう言いかけて、スザクは言葉を濁した。
何か言いたくないことでもあるのだろうか。
強制ではなく軽く続きを促すと、スザクは少し眉尻を下げて、再び口を開いた。

「時々思うんだ。
今の僕なんかが、君やナナリーに会っていいのかな……って。
その……軍人になってしまった僕が……」

悲痛ささえ感じる表情に、胸が塞がる。
スザクは今の自分が正しいと信じながらも、迷いを抱いているらしい。
そんなスザクを甘いと感じる反面、素直にその迷いを口に出来ることを羨ましくも思った。

「……そんなことで俺とナナリーがお前を拒絶すると思ってるのか?
そんな冷たい奴だと思われてるなんて、心外だな」
「そ、そうじゃなくて!」

俺が落胆してみせたのが効いたのだろう。
スザクは慌てて言い訳を始めた。
そんなスザクに我慢出来ず、俺は失笑してしまう。
それを見たスザクも苦笑を浮かべた。

「――とにかく、そんな気は遣わなくていい。
いつでも会いに来ればいいんだ。
その方がナナリーも喜ぶからな」
「……うん、そうするよ」

ありがとう、とスザクは言ったが礼を言われるようなことじゃない。
スザクは家族のようなものだ。
家族のいる場所に帰るのに、気を遣う必要なんてないはずだ、きっと。

「あ、ごめん」

不意に時計を確認したスザクが立ち上がる。
まだ授業が始まるまでには時間があったので、俺は何かあったかと考えを巡らせた。

「今日は午後から仕事なんだ。
悪いけど、もう行かなきゃ」
「そうか……」

俺の考えのひとつとスザクの言葉が一致し、溜め息を吐きたくなる。
軍は余程忙しいらしい。
……それもそうか。

「明日は来られるのか?」
「多分大丈夫だと思うよ!」

スザクは行儀悪くサンドイッチを食べた指を舐め、早口で昼食の礼を述べた。

「じゃあルルーシュ、また明日!」
「ああ、また明日な」

そしてぶんぶんと手を振り、スザクは屋上を後にした。
広い屋上に、俺とサンドイッチだけが残っている。
あれっぽっちの量で足りただろうか。
少し心配しながらも、俺は残りのサンドイッチを口に運ぶ。

「また明日、か」

下を覗き込むと、慌ただしく駆けていくスザクの背中が見えた。
それを見送る際、ふと胸が苦しくなった。
何故かは分からない。
しかし予感か、或いは何かを察知したのか。
とにかくひとつだけ分かったことがある。
――きっと、そんな明日は来ないのだ、と。



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