No.036 廃墟の中で見る夢



小さな手鏡を見て、お化粧を直す。
誰も見ていない、なんてことは言っちゃ駄目。
いつ誰に会ってもいいように、どんな時でも一番可愛い自分を保つのは乙女の常識よね!
……とは言っても、本当にみんな私なんて見ていないから悲しいわねぇ。
ゼラの命令に真面目に従ってるのは感心だけど。
でも、ゼラはどうしてあそこまでマシンを作ることにこだわっているのかしら?
そして、みんなはそれに従って何をするつもりなのかしら?
私?
私はもちろん美しいゼラの傍にいられるからよ!
な〜んちゃって、ウフフ!

「ダフ、遅れてるぞ!」
「ご、ごめん……」

あらあら、こんなところまでニコの怒鳴り声が聞こえるのね。
ニコも私と同じように、ゼラが美しいから従っているみたい。
……少し違うかしら?
彼は私よりもっともっとゼラに心酔してるものねぇ。
きっとゼラの望みを叶えることが望みなんだわ。
そういうところは評価してあげるわぁ〜。
でも、いくらゼラの為とはいえ大声で怒鳴り散らすなんて、美しくないわよねぇ。
やっぱりゼラみたいにクールな方が、私は好きだわ。
さて、と。
私も早くお化粧直して戻らないと、ニコに怒られちゃう!

「らーいぞーっ」
「きゃあっ!」

早く戻ろうと急いで白粉をパフパフしていたら、突然後ろから抱きつかれた!
もう、ビックリするじゃない!

「あ、まだお化粧中だった?
ゴメンゴメン」

ジャイボは全然申し訳なさそうじゃない顔で言った。
……それでも許されちゃうから、美しいって得よねぇ。

「んもう、もし眉とか描いてる時だったらどうするのよ」
「それはそれで見てみたいかも。
眉のぐちゃぐちゃな雷蔵……きゃははっ」

ジャイボは可笑しそうに笑ったけれど、ぜんっぜん笑い事じゃないわよね〜。
確かにジャイボくらい美人なら、眉なんて関係無いかもしれないけど。
……なーんて。
嫉妬なんて醜いこと、しちゃいけないわよね!
心が醜いと顔まで醜くなっちゃうかもしれないもの。
でも、嫉妬したくもなっちゃうわよ。

「ジャイボ、何やってるんだ?」
「ゼラ!」

ほら。
ジャイボは、あんなに美しいゼラに愛されているんだもの。
私がいなくなってもゼラは追いかけてはくれないわ。
ほんと、羨ましいわよね〜。

「すぐに雷蔵と戻るから心配しないでよ」
「そうか……」

ジャイボの言葉に、ゼラは踵を反した。
こうなっちゃうと、廃墟の帝王も形無しよねぇ……。
でも、あのゼラにそんなに愛されてるなんて、本当に羨ましいわぁ。
あっ!
私は別にゼラが好きなんじゃないわよ!
私もあんな素敵な王子様に迎えに来て欲しいわぁ……って思っただけ。
二人はとっても美しくって、私が入るスキなんてどこにも無いしねぇ〜。

「……雷蔵?」

あら、いけない。
いつの間にか私ったらじぃーっとジャイボを見てたみたい。

「どうかしたの?」
「ううん。
ジャイボとゼラが一緒にいると、とっても美しいから見とれてただけよぉ〜」
「え、ほんとに?」

ジャイボったら意外と顔にすぐ出るみたい。
こういう可愛いところもあるのよね。

「だから私、二人が一緒にいるのを見るのが好きなの。
これからも二人が仲良しなら私も嬉しいわぁ〜!」

私の言葉に、ジャイボは恥ずかしそうに頷いた。
そうよね、一番そうしたいのはジャイボなのよね。

「……あ、ほ、ほら!
早く戻ろうよ」

誤魔化すみたいに、赤面したジャイボが私の手を引っ張る。
私の方もほとんどバッチリ。
あとは口紅を……。

「あれ、雷蔵。
口紅変えたんだね。
そっちの方が似合ってるよ、きゃはっ!」

……あら。
ジャイボって意外と私のこと、見てくれてるのね……。
私はジャイボみたいに美しくなりたいって一方的に憧れてるから、よく見てるけど、まさかジャイボが私のことを見てくれてるなんて。

「ありがとう。
……でも、ジャイボじゃなくて素敵な王子様に言われたかったわぁ……」
「なにそれ、人がせっかく褒めてあげてるのにさ」

私のそれは、もちろん照れ隠し。
ジャイボは不満げに口を尖らせてから、愛らしい笑顔を浮かべた。

「でも、雷蔵って可愛いからさ。
きっとそのうち素敵な人が見つかるって!」

そう?
私は思わず聞き返す。
だってジャイボがそう言ってくれるなんて。

「うん。
ほら、早く戻らないとニコに怒鳴られるよ!
きゃはっ」

私は思わずにやけそうになりながら、ジャイボの後に続く。
ジャイボが褒めてくれたら、なんだか自信が沸いてきちゃったわ!
お化粧もバッチリだし、いつでも準備OKね。
あ〜ん、早く私の王子様、現れないかなぁ〜!



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