No.011 ぬいぐるみ



久しぶりに浜田んちに行ったら、なんかでかいぬいぐるみがいた。
ちょっと前に出たゲームのモンスターだ。
……浜田、あのゲームやってたっけ?
やってたとしても、ぬいぐるみ買うほどハマってたか?

「泉ー、すぐ出来るからちょっと待っててー」

浜田が晩飯作りながらそんなことを言ってる。
いい匂いがしてきたけど、出来るのはまだまだ先だろう。
それまでの間、俺は浜田の部屋を物色してみた。
…………。
そのゲームどころか、ゲーム機も無い。
やっぱ、持ってねーよな。
誰かに貸してるのかもしれねーけど。
俺は改めてぬいぐるみを見た。
への字の口が特徴の、ラッコっぽいモンスターだ。
ラッコは枕元にでーんと鎮座してる。
やっぱ結構でかい。

「あ、そいつ可愛いだろ」

いつの間にか晩飯が出来てたらしい。
皿を並べながら、浜田はぬいぐるみを観察してた俺に声をかけてきた。

「こんなでけーの置いてたら寝る時邪魔じゃねぇ?」
「邪魔とかじゃなくて、俺今そいつ抱いて寝てるからさ」

俺の正論に、浜田はけろっとした顔でそう返した。
ぬいぐるみは飾りじゃなく、抱き枕らしい。
いい年してこんなもん抱いて寝んなよな。
……うわっ、想像しちまった。
かなりウゼー。

「あ、あれ?
泉……なんか怒ってる?」
「あ?」

いや、別に怒ってはない。
あのぬいぐるみ抱いて寝てる浜田とか考えたら、なんかキモイからイラッときただけだ。
それが顔に出てたらしい。
別に怒ってねーよ、と言ったら浜田が目に見えて狼狽しだした。

「いや、泉それ怒ってるから!
俺なんかしたっけ……」
「だから別に、」
「あー待って!
自分で考えるから!」

怒ってねーって言ってんのに。
なんか逆に腹立つ。
俺が半分無意識に浜田を睨むと、浜田はパッと顔を上げた。
突然目が合って、俺は思わず目をそらす。

「な、なんだよ」
「分かった!
俺があのぬいぐるみのこと可愛いって言ったからだろ!」
「はぁっ!?」

こいつの頭、どうなってんだよ!
俺がそんなことでキレるような奴に見えてんのか?
どうやら本当にそう見えてるらしい浜田の目は真剣だ。

「当たり前だけど、泉のが可愛いって!」
「お前馬鹿だろ」

俺の呆れる声も耳には入らないようだ。
浜田はぎゅうっと俺に抱きついてきた。
半分タックルみたいな勢いだったから、俺はそのまま後ろに倒れそうになる。
頭とか打ったらどうすんだよ!

「だって最近泉、忙しくてうち来ないじゃん。
それでこう、寂しくてさー」
「ちょっ、苦しいんだよテメーは」
「たまたま見かけたあいつが泉に似てたから、つい」

……は?
今なんてった?
あのラッコと俺が似てる?
どこが?
あ……無愛想なツラは似てるかもしれねーけど。

「じゃテメーはそんな妄想しながら毎晩ぬいぐるみ抱いて寝てんのかよ!
変態か!」
「んーでもやっぱ抱き心地は泉が一番だな」

話通じねー!
しかもさっきから思いっきり抱きしめられてるから、かなり苦しい。
そりゃ確かに久しぶりかもしれねーけど、まずは晩飯食うだろ!

「えー、俺晩飯より先に泉が、」
「それ以上言ったら今すぐ帰る。
先に晩飯な、腹減ってんだよ」
「ハイ……」

なんとか浜田を黙らせ、引き剥がす。
帰るって言ったのがよっぽど効いたのか、浜田はおとなしく晩飯を食う気になったらしい。

「あれ、泉?」

俺は飯じゃなく、ラッコの方に近付いた。
やっぱり俺には似てねーよ。
俺はげしっとぬいぐるみを蹴った。
後ろで浜田が悲鳴あげてるけど、知ったことか。

「ラッコのくせに、そこは俺の場所なんだよ!」

床を転がるぬいぐるみに言い放つ。
それで俺は満足して、晩飯を食うことにした。

「え、泉……」

浜田がマンガみてぇにポロリと箸を落とす。
俺はその箸を拾ってやって「先に晩飯な」と念を押した。

「それって……」
「ほら食うぞ、美味そう!
いただきます!」



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