「アオくん!今日はね、アオくんのお祝いにおいしいものいっぱい作ったんだよっ!」

アキラがにこにこしながらテーブルに皿を並べる。
不器用なこいつにしてはよく出来た料理だ。

「お祝い、って?」
「アオくんがセンセーするお祝いだよ!」



twice



ああ、そういうことか。
ちゃんと分かってたんだな。

「ふふ、アオくん嬉しそうだから、僕も嬉しい」

見た目よりもっと中身が子供のアキラはまだうまく会話が出来ない。
幼い子供がするように単語を組み合わせてぎこちなく喋るのが精一杯だ。
…まあ、怒らせると驚くほどスラスラ喋るんだが。

「おめでとう、アオくん」
「ああ、ありがとう」
「うん、早く食べて!」

アキラがまるで自分のことのように笑う。
まったく、そんな顔されるとこっちまで顔がゆるむだろうが。
…顔。
そうだ、顔だ。
あの少女は何故アキラにそっくりだったんだ?
他人のそら似…なんてレベルじゃなかった。

「なあ、アキラ…」
「なあ、じゃなくて、いただきます、だよ。アオくん」
「いや、そうじゃなくて。
ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」

俺はアキラに今日あった出来事を話した。
違うのは目の色と髪型くらいの、瓜二つな少女のことを。

「…もみじ…」
「え?」
「その子の名前…もしかして…そう、なの…?」
「知ってるのか!?」

アキラは確かに今「もみじ」と言った。
俺はまだ少女の名前を一度も言っていない。
それを知っているということは、あの少女とアキラは何か関係があるのだろうか。
そして、俺の両親を殺した少年とも…

「知らない!」

がたん!
アキラがテーブルを叩くようにして立ち上がる。

「知らないって…お前今…」
「知らない!知らない知らない!」

何度も知らない、と叫びながらアキラは頭を抱えて踞った。
がたがたと震え、怯えているようだ。
俺は出来る限り刺激しないように話しかける。

「もしかして…カナリヤ、に関係することなのか?」

暫くしてアキラは頷いた。
どうやら当たったらしい。
アキラは昔の話をしたがらない。
聞き出そうとすると怯えてしまう。

「アキラ、悪かった。もういい」

俺はそっとアキラの頭を撫でてみた。
しばらくしてアキラの身体の震えが止まる。
これで落ち着くなんて、本当に子供みたいだ。

「アオシ、…僕は君が好きだよ」
「あぁ、うん、知ってるよ」

じゃなきゃこんなところにいないだろ。
そう言うとアキラは笑った。

「だからね、僕は今幸せなんだ。
初めは僕たちすっごくケンカしたけど、今はこうやって一緒に暮らしてるでしょ…?
僕はこんな風にずっと一緒にいたいって思ってるんだよ。
僕は今の日常に満足してるんだ…。
…だから…だからね…」
「な…おい、泣くなよ…」

アキラの笑顔がぐにゃりと歪む。
ったく、泣かれると困るだろうが。
こういうの苦手なんだよ、俺は。

「…アオシは、自分のお父さんとお母さんを殺した犯人を見つけたいんだよね…?」
「あ…ああ、まぁな」

…アキラには言っていない。
アキラがあの時俺の両親を殺した少年と瓜二つだということを。
あの少年と、アキラ。
それに…もみじ。
何か関係しているに違いない。

「僕は、出来れば協力してあげたい。
だけど、今の幸せを壊したくない。
だから、その…」
「いや、いいんだ。
お前は何も気にしなくていい。
これは俺の問題だからな」

初めて会った際、アキラに俺は聞いた。
「お前は俺の両親を殺した犯人か?」と。
しかし、アキラの答えは予想外なものだった。
「毎日たくさん人を殺したから、君の両親を殺したのかどうか覚えていないし分からない」。
アキラはそう答えた。
つまり、アキラの疑いは完全に晴れた訳ではない。
最悪の場合、俺はアキラを殺すことになる。
しかし、アキラが殺したという証拠も今のところは無い。
本当に無罪の可能性だってあるわけだ。
…考え始めるとキリがない。
今俺に出来ることはアキラはやってないと信じることのみだ。

「ほら、料理冷めるぞ。
俺のお祝いなんだろ、早く食おう」

俺がテーブルに着くと、アキラも目をごしごし擦りながら向かいに座った。

「いただきますだよ、アオくん」
「分かった分かった」

食事の前には手を合わせて「いただきます」。
本当にこの平和が続けばいいのにな。
ああ、確かにちょっと平和過ぎる気もするが。



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