本部に待機している間、監視の役目は発生しない。
まだ任務を受けていないからだ。
俺達が監視するのは任務中だけでいい。
なので、俺とティムは本部では基本的に別行動だ。
タマとレティみたく四六時中べったりの奴らもいるが、俺には無理だな。
ティムの相手をするのはわりと疲れる。
ティムが嫌いなわけじゃないんだが、ただただ疲れる。
そんなわけで、俺はカフェでコーヒーを飲みながら一人待機しているのだ。
俺はいつも待機とはいえ仕事中だと考えているので、出来るだけ上司にも見つけやすい位置にいるんだが、ティムはよく消える。
まったく、仕事待ちの本部待機すらままならない奴だ。
……いや、本部にいるのはいるんだが、待機はしてないというか。

『ティム・エリアワルツァー。
すぐに三階の第二会議室まで来るように』

待機中に仕事の準備が整うと、俺達はこうやって放送で呼び出される。
だから基本的には静かなカフェや休憩室でそれを待つ。
しかし、ティムはそれをしない。
ほぼ確実に、放送の聞こえない轟音の響く場所にいるのだ。

「ティムはどうしたの」
「はあ、また放送聞いてないんじゃないですか」

会議室に行くと、やっぱりティムはいなかった。
ネスが腕組みしながら貧乏揺すりをしているだけだ。

「今すぐ。
今すぐに呼んで来なさい。
今すぐよ」
「は、はいッ」

どうやらネスは俺の想像以上に苛立っていたらしい。
俺は逃げるように部屋を出て、ティムがいるであろう場所に向かった。



轟音が絶え間なく響く部屋。
俺があまり近寄りたくない場所に、思った通りティムはいた。

「ティム」

丁度六発目を撃ち終えたところで、俺はティムに声をかけた。
ティムは空になった薬莢をバラバラ床に落としながらこちらを振り向く。

「あれ、珍しいね。
カイルも射撃の練習?」

俺は「馬鹿言うな」と首を振った。
射撃練習所は嫌いだ。
獣人は耳と鼻がいいため、音と火薬の臭いで目眩がするからだ。
逆に、ティムは銃が好きらしい。
「かっこいいから」という理由で時代遅れのリボルバーなんかを使っている。

「で、何?」
「ああ、仕事らしいぞ」
「え?」

喋りながら弾を装填したティムは、間抜けな声を上げながら一発撃った。
それでも弾は的に当たる。
まったくふざけてるとしか思えない。

「放送あった?」
「あった。
お前が聞いてないだけだ」

やはりというかなんというか、ティムは放送を聞いていなかったらしい。
まあここじゃ聞こえないだろうが。
さっさと行くぞ、と腕を引っ張った俺に、ティムは媚びるような笑顔で言った。

「あ、待って。
あと十……や、あと五発だけ。
残ってるから五発」

馬鹿言うな。
遅れてる時点でネスに怒鳴られるのは決定している。
それを更に怒らせてどうするんだ。
俺の反論も、ティムはまるで聞いていない様子で笑っている。

「だってこのヘンゼルがもっと撃ちたいって」
「撃ちたいのはお前だろ」

ヘンゼル、というのはティムの銃の名前だ。
見た目は一昔前のリボルバーそのものだが、ティムにしか扱えないレベルに改造されている。
常人なら反動が大きすぎてまともに撃つのも難しい、らしい。
俺はティムと違って銃のことはよく分からないし、興味も無い。

「五発なんてすぐだよ。
一、二、三、四、五。
はいおしまい」

ドンドンとやかましい音が五回響き、ティムはまた薬莢を床にまとめて落とした。
的はほぼ同じ位置にだけ穴が空いている。
頭と、丁度心臓の部分だ。
ここまでやれて、今更何が練習なんだろうか。

「じゃあ行こうか」

あれだけの反動の銃を難無く連射したティムは、けろっと笑って歩き出した。
本当にあらゆる意味で非常識な奴だ。
訓練はいいが、放送が聞こえるように消音装置でも付けて欲しいものだ。
音が消えた方が任務でも役立つだろうに。

「残念だけど僕の銃のタイプだと装置付けても意味無いんだよ」

歩きながら、ティムが銃についての解説を始める。
リボルバーは隙間から音がもれるとかなんとか。
興味が無いので聞き流す。
銃は嫌いだ。
俺の耳には音が大きすぎる。

「音が原因で敵に見つかったり死んじゃったりするかもしれないけど、音が聞こえないとやっぱり――」
「……やっぱり?」

自分の命と発砲の音、天秤にかけるようなことなのか?
そんなくだらないことで命を落としでもしたらどうするんだ。
聞き返した俺に、ティムは満面の笑みでこう言いながら、会議室の扉を開けた。

「ロマンが無いじゃない」

――ふざけるな!
俺の声と、中にいたネスの声が響いたのは同時だった。



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