ハスハ第二中学校、通称ハスハ二中。
そこが僕の通う学校の名前だ。
第四まであるハスハの中でも特に有名らしくって、遠いとこからわざわざ来てる生徒もいる。
噂になった転校生もそうさ。
ああ、なんでもこんな時期に転校生がやってくるんだって噂になってたんだ。
遠路遥々ご苦労様だよね。
で、僕は新聞部の部長……ていうか、僕しか部員がいないんだけど。
とにかく新聞部の部長の僕は早速この転校生の噂をまとめに取りかかったわけ。
情報持ってそうな先生とか手当たり次第聞きまくってさ、なんだかんだで僕の新聞は出来上がったんだ。
「ハスハ校内新聞」っていうんだけどね。
そのまんまだよね、あはは。
まあとにかく僕は校内に新聞を配りに行ったわけさ。
他に部員がいればこの辺は楽だろうなーっていっつも思うよ、うん!
自分で届ける楽しさってのはもちろんあるんだけど。



僕がまず向かうのは生徒会室。
これはもう習慣みたいなもので、僕は新聞が出来上がり次第すぐに生徒会室に行くことにしてる。

「ぶちょーさん、新聞出来たの?」

この金髪の可愛い子はもみじ。
僕はもみっちって呼んでるんだ。
どうやら僕の作る新聞を楽しみにしてくれてるらしい、有り難いことだよね。

「『噂の転校生の謎に迫る!』ねぇ……。
こんなこと書いといて、前は結局ガセだったじゃん」

金髪は金髪でもアホ毛の方はティナ。
若干勝ち気入ってるけど、生徒会じゃまともな方かな。

「ああ……『女子生徒大ショック!辰斗先生が寿退職!?』ってやつでしょう?
あれは僕のクラスでも数名が泣き出して、大変な騒ぎになりましたね」

今ティナから新聞取り上げた敬語眼鏡は刃。
すました顔してるけど、こいつ実はもみっちが好きなんだ。
二人っきりになると緊張して喋れなくなるんだぜ。

「あれは……半分くらいあってたじゃないか」
「結婚も寿退職も辰斗先生じゃなくて、先生のお姉さんだったじゃない!」

ティナの言う通り。
先生がしたお姉さんの結婚話を先生のことと勘違いした誰かのせいで噂は次第にエスカレート……。
僕もテンション上げて書いちゃったせいで、本人に確認取り忘れてたんだよねー、失敗失敗。
辰斗先生はすっごい人気あるからさ、こういう馬鹿みたいな噂でも真に受けちゃう馬鹿がいるわけ。
……書いた僕も僕だけどさ。

「それで、転校生とやらの写真ぐれェは手に入ってんだよなァ?」

このエッラソーなのは生徒会長の刀也!
喋りが微妙に時代劇入ってるのはお姉ちゃんの影響なんだってさ。
どーでもいい?いいよね?
僕こいつ嫌いだし。
ってわけで、僕は刀也を無視した。
KY?知らないね。

「あ、えっと、次は先生のところに持って行くの、ぶちょーさん?」
「……そうだね、そうしよっかなぁ」

もみっちは一気に重くなった空気を読んだみたいで、僕に新しい話題を振ってくれた。
この子はこういうところが可愛いんだよね。
で、せっかくだしお言葉に甘えて、僕はさっさと部屋を出ることにしたんだ。
生徒会じゃなくてもこの部屋に来る奴は多いから、人数より少し余分に新聞を置いてね。
ほんっとなんで刀也なんかが生徒会長なんだろうねー。
前生徒会長のお姉ちゃんの推薦らしいけど……納得いかないなぁー。



なーんて僕が刀也の悪口をぶつぶつ言いながら歩いてたら、頭をべしって叩かれた。
何かと思ったら、銀髪と馬鹿でっかい胸が目に入った。

「ディス先生!」
「こら、ぶつぶつ悪口言わないの。
言うなら正面から本人に言いなさい」

ディス先生はさっき話に出てた辰斗先生と同じくらい人気のある先生。
優しいし、可愛いし、頼りになるし、ほんと完璧超人だよ。
あ、ちなみに胸もでかいよ。
そのくせ体育教師だったりするからさ、もう水泳の授業とか大騒ぎ!
結構怪しい目で見てる奴らも多いんじゃない?

「真正面から言ったらファンの子に殺されますよ」
「それは……ちょっと問題があるわね……」

刀也の奴、不良のくせに生徒会長で、ついでに軽音でボーカルやってんだ。
いつの乙女ドラマの相手役だっつーの!
で!
そんな相手役だから乙女ちゃん達がファンクラブなんて作ってんの!
ほんっと馬鹿だよねぇ!

「でもまあ、仕方ないわよ。
彼は彼なりに青春してるつもりなんじゃない?」
「クソくらえです」

なーにが青春!
不良で生徒会長で軽音のボーカルが?
それとも、ちょっと顔がよくて若干人より歌が上手いからって、ただそれだけの理由で騒ぎ立ててファンクラブなんか作っちゃうことが?
くだらない!
ほんとーに馬鹿ばっかりだ!
そんな俗っぽい「青春」が嫌で僕はこの学校に来たっていうのにさ!

「ま、あんたはあんたなりに自分の楽しいと思うことをすればいいわ。
あんた、トラブルメーカーとか言われてるけど、結構面白いこと思いつくしね」

先生は僕の頭を撫でて、新聞を受け取り、さっさと職員室へ配りに帰った。
ほらみろ、僕の青春を評価してくれてる人はいるんだ。
せっかくハスハに来たんだからさ、平凡でも普通でもない刺激的な毎日を楽しまないと損だよ。
ねえ、そう思わない?



僕は学校中を走り回って新聞を配った。
三年の階でもちょっとは噂が届いてるらしくて、かえでちゃんと咲ちゃん……あ、もみっちと刀也のお姉ちゃんね。
そのかえでちゃんと咲ちゃんも会ってみたいって言ってた。
ハスハの三年生って悟り開いちゃってるっていうか、なんかいろいろ変な人多いんだよね。
だから一年とか二年とかの階で流れてる噂とか全然興味無いみたいでさ。
そういう人達が僕の新聞で興味持ってくれたりすると嬉しいよね。
毎日毎日学校の内外で起こるいろんなことを広めまくるのって結構楽しい。
いろんなコラムを書くために変なことにチャレンジするのも笑ってもらえる。
感想とかもらっちゃうと僕が書くことでこの学校のみんなに何かを残せるんだって大袈裟なこととか考えちゃう。
誇大妄想?
別にいいじゃん、妄想だっていつか現実になるかもしれないし?
…………。
はいそこ引かない。
あー、長くなったし最後ズレたけど、ここまでが今朝の話。
意味分かる?
僕が学校の端から端まで広めといたから、君のことは今や学校で知らない人はいないって状態。
誰に声かけても仲良くしてもらえるよ。
これからはここでの生活を思いっきり楽しんでいってよね。
んじゃあ、改めて。
自己紹介遅れたけど、僕は新聞部の唯一の部員にして部長のノア。
ようこそ、ハスハ二中へ!



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