「ねえ」

なにしてんの。
オレは中庭の地面にしゃがみこんで何かやってるそいつに話しかけた。

「おはか」
「え?」
「おはか、作ってんの」

お、は、か。
ああ、お墓、お墓ね。

「何か死んだの?」

オレがそう言うと、そいつは――アリスは木の枝で作った粗末な十字架を取り出した。

「とり、死んじゃった」
「鳥?なんの?」

この国にいる鳥で一番有名なのはフラミンゴだろう。
クロケーをする時に必要だからだ。
もしくは池のアヒル?
オレがそう聞くとアリスは首を横に振って答えた。

「知らない」

へえ!
自分でも驚くほど、わざとらしい素っ頓狂な声が出た。
アリスは少し肩をすくめた。
本当に知らないみたいだ。

「雀がね、くれたんだよ。
だから僕は自分で選んだんじゃないし、調べようとも思わなかったからさ」
「ふーん」

雀もたまには素敵なプレゼントを贈るじゃないか。
普段はあいつの素敵な趣味が前面に押し出された『大変趣味の悪いヘッドドレス』を持ってくるからな。

「でも、可愛がってたじゃん」

十字架を黙っていじっているアリスは、いつもより暗い表情だった。
本当はあの鳥の世話もオレの役目のはずだったけどさ。
アリスがどうしてもと言うからずっとオレはアリスが鳥を可愛がってるのを見てた。
だから、分かる。
アリスはあの鳥が大好きだったし、多分あの鳥もアリスが大好きだった。

「僕の育て方が悪かったのかな」

オレは首を振った。
アリスはあんなに熱心に世話をしたんだ。
悪いことなんかあるもんか。
そう言うとアリスは少しだけ笑った。
泣きそうな顔で笑った。

「ねえアリス」
「なに?」

どうして、そんな顔で笑うの。

「泣けばいいじゃん」

思いっきり泣けばいいじゃん。
そんなに無理して笑うなら、泣く方が何倍もいいに決まってる。

「泣けないよ」

鳥が悲しむから?

「違うよ」

そりゃあね。
オレがそう言うのが分かってたみたいで、アリスは力無くまた笑った。

「僕にはそんな機能付いてないよ」
「なんで?」
「必要ないから」

アリスはきっぱりそれだけ答えて、鳥の墓を完成させた。
昔の……ここに来る前のアリスはどんな奴だったのか、とか、何があったのか、とか。
気になることはいっぱいあるけど、アリスが話したがらないのだから、オレも聞くわけにはいかないか。
それにこれ以上は、軍鶏は質問ばっかりだねって笑われそうだし。

「アリス、泣くなよ」
「だから泣けないんだってば」
「いいよ、オレはアリスが泣いてることにしたから。今決めた」

自分でもわけわかんないこと言ってるな、と思った。
でも、アリスは笑って泣き真似をしてくれた。

「うえーん」

棒読みだったけどさ。

「よしよし、アリス泣くなよ」

オレはアリスの頭をぽんぽん叩いた。
ついでに、しゃがんだ時についたドロもはらってやった。

「アリス、動物は可愛がるとな、自分が死んだ時に代わりの動物を連れてくるんだって。
自分が死んだら飼い主が寂しくなるから、寂しくないように新しい動物を連れてきてくれるんだって」

だから、大丈夫。
今度は自分が悪いと思ったところを直して、もっともっと新しい動物を可愛がってやればいいんだよ。
そしたら、あの鳥も安心できるよ。

「そうかな?」
「そうだよ」

アリスは安心したように笑った。

「そっかぁ、もしかしたら雀が新しい子を連れてくるかもしれないもんね」
「うんうん。よし、鳥カゴの掃除でもするか」

そう言って二人で笑って、城の方へ歩き出した時だった。
薔薇の庭園の方が騒がしくなったのは。

「アリス!アリス!」

トランプの一人がこちらに走って来た。
アリスは不機嫌そうに眉を寄せてどうしたのか聞いた。

「大変です!空から……!」

オレもここで暮らして長いけど、こんなに驚いたことは無かった。
あの鳥……代わりの動物なんて生易しいもんじゃないのを連れてきやがった!

「空から、人間が降ってきました!!」



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