世界は何度も廻っている。
同じ世界が、少しずつズレのある違う世界となって、何度も廻っている。
他の使徒が形を変えても、僕だけは同じ姿で何度も廻っている。
彼が幸せを手に入れられる世界を目指して、何度も何度も廻っている。



What is your happiness?



世界は何度だって崩壊した。
それを彼が望んだ場合もあったし、使徒に適わず滅んでしまった時もあった。
僕が彼に近付くこともあったし、ただ見守るだけの世界もあった。
どれもこれも、駄目だった。

(僕は考える)

そもそも、彼にとって幸せとは何なのだろうか。
父親に認められ、エヴァに乗って戦い続ける世界だろうか。
全ての葛藤を振り払い、納得してエヴァに乗る世界だろうか。
誰かを守る為に戦うことを選択する世界だろうか。
彼が崩壊を望んだ世界は、彼が幸せな世界ではなかったのだろうか。

(僕は考える)

彼の幸せな世界、それはエヴァが存在しない世界ではないだろうか。

(僕は考える)

使徒もいない世界。
彼は普通の中学生で、優しい両親や楽しい友人達がいて、戦争の無い平和な日常を笑って暮らしていく世界。
それが彼の幸せではないだろうか。

(僕は考える)

不可能だ、と。
何故なら、それは僕がいる限り実現しないからだ。
しかし僕が消えたとして、次に廻ってくるのが使徒のいない世界である保証は無い。
僕が消えたとしてもファーストのように別の僕が生まれる可能性だってある。
彼の為に消えるのは悪くはないけど、リスクが大きすぎる。

(僕は考える)

…………。
これは、僕が彼の傍を離れたくないが為の言い訳じゃないのか?



「――何それ、どういう意味」

その言葉を聞いて僕は微笑んだ。
と、同時に掴んでいた彼の手首から手を離す。

「別に、意味はないよ」

僕はそうやって弁明したけど、彼は納得いかない様子で不満の声を上げた。

「なくはないだろ。
突然引き留めて『好きだよ』なんてさ」

この世界の彼は他の世界の彼よりも随分と強気だ。
結構厳しい意見もはっきり言ったりする。

「本当に意味なんてないんだよ。
僕が言いたかっただけ」
「僕、男なんだけど」

うん、知ってる。
笑って頷くと、彼はため息をついた。

「あのね、カヲル君」

彼に名前を呼ばれると嬉しい。
とことん嫌われて一度も呼んでもらえない世界もあったっけ。
この世界の彼にはその点、嫌われてないと思っていいはずだ。

「いいかい、誰彼構わずそういうことを言うのは――」
「君にしか言わないよ」

僕の言葉に、「なっ」と彼が言葉に詰まった。
少し顔も赤らんでいるようだ。

「言っておくけど、僕は別に君のこと好きじゃないからね」
「それは嫌いでもないってこと?」

揚げ足を取られた彼はますます赤くなってしまった。
普段の冷静な振る舞いがどんどん崩れていくのが面白くて、僕は更に続けてみる。

「ねえ、シンジ君。
君が僕を好きだとか嫌いだとかは関係ないんだよ。
君が僕を好きでも嫌いでも、僕は君が好きなんだから」

そう、僕が彼を嫌うことは有り得ない。
万が一その時が訪れたなら、それが僕のループの終わりなのかもしれない。
僕がいなくなった世界はどうなっているんだろう。
彼は幸せになれるのだろうか。
僕のいない世界に幸せは有り得ない、と言われた世界もあった。
しかし、僕が死を選ばない世界は長くは続かない。
必ず滅びることになる。
ならば理想的なのは僕が彼に嫌われていて、あっさりと殺されてしまう世界なのかもしれない。

「君が僕を嫌うならそれでいい。
ただ、僕が君を好きならそれだけで十分なんだ」
「……何を言ってるのか分からないよ」

困ったように眉をひそめた彼に、僕は笑いかけた。

「とにかく、僕が君を好きってことさ」



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