「うーん……」

なんとなく、鏡の前で唸ってみた。
鏡の中の眼鏡の男はしかめっ面をしてる。

「やっぱ、逆にこれはまずいよなぁ?」

俺が「これ」に気付いたのは、明日の確認中――つまり今さっきだ。
明日の夜、目当ての宝石が展示される場所に、俺は運良くバイトとして潜り込めることになった。
しかし警察、特に中森警部は俺の顔を知っている。
……まあ、あの人なら「小遣い稼ぎの短期バイト」とか言えば騙せそうだけど、用心に越したことはない。
バイトの面接は素顔で行っちまったから、手っ取り早く、不自然じゃない程度の変装として髪型を変えて眼鏡をかけておくことにした。
で、そんなシンプルな自分の変装の出来を確かめようと鏡を見てみると――

「これ、完全に見たことある顔だし……」

――どっかの誰かに瓜二つだった。
まあ元々顔は似てたし、髪を整えてみたらそうなるっちゃなるだろう。
しかもそこに眼鏡だ。
おかげでどっかのボウズがそのまま成長したような顔になってしまっている。
万が一知ってる奴に見られたらボウズの正体に勘づくことがあるかもしれない。
必死に隠してるっぽいし、さすがに俺がバラすようなことはやめといた方がよさそうだ。

「真実はいつもひとつ!」

鏡に向かって指を突きつけてみる。
声を変えるのを忘れたせいか、ますますどっかの探偵になってしまった。

「『真実はいつもひとつ!』……うん、確かこんな声だったよな」

とりあえずあのボウズの声で同じ台詞をもう一回。
だいぶそれっぽくなった気がする。
しかし、あのガキ普段はもっとぶりっぶりの顔と声だったよな。
ある意味、俺より上か?

「蘭姉ちゃーん、とかって」

……あれ?
思ったより似なかったな。
意外と難易度高いぞ。
くそっ、素人のくせにあのボウズやるじゃねーか!
けどこの快斗様に不可能な変装はねえんだよ!

「くっそー、何が違うんだ?」

とりあえず、頬を引っ張ったりしながら考えてみる。
顔はもっと大袈裟な方がいいか。
そんで……あ、そうか。
チビだから自然に上目遣いになって余計にそう見えんだな。
じゃあちょっと屈んでー……こんなもんか?
あとは発音を変えて、それじゃ、もう一回やってみっか!

「『蘭姉ちゃーん』。
……おおぉー!」

やべぇ、今のそっくりだろ!
ぜってーバレねぇよ!
今度あの探偵事務所の前でやってみっかなー!
いやー、しかし大変だなこれ。
毎日こんなことやってたら顔面つるって。
……何より恥ずかしいしな、色々と。
なかなかあの探偵も怪盗の才能とかありそうだよなぁ。
もしももっと愛想振り撒いてたら騙されてたかもなー、俺。

「『快斗兄ちゃーん』なんつって」

うわ、これ騙されるって!
見た目は人畜無害なガキだもんな……。

「……ぼっちゃま」
「のわぁああっ!?」

突然背後からぬっと現れた人影に驚いて思わず尻餅をつく。
……な、なんだジイちゃんかよ……。
脅かすなよなー。
ん、あれ?

「っていつからいたんだよ!?」

もしかして、いやしなくても今のやつ見られたか!?
やべえ恥ずかしすぎて死ぬって!

「い、今のはなジイちゃん!
ほら、変装の練習だって!
怪盗キッドは誰にでも変装出来ないとっていうか!」

俺は聞かれてもないのに言い訳をしながら、かけてた眼鏡を胸ポケットに押し込んだ。

「そんなことよりぼっちゃま、そろそろ時間では……」
「あ、ああ!
そうだな、じゃあ行くか!」

ジイちゃんは見なかったことにしてくれたらしい。
俺はとりあえず帽子を被って髪の毛を隠した。
……ったく、こうなったのもあのボウズのせいだよな。
本っ当にあのガキは俺の邪魔ばっかしやがって!
っにゃろー、次会ったら覚えてやがれぇっ!



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