「浜田とキャッチボールしたい」

それが泉の誕生日の願いだった。


小さな公園にボールの音だけが響く。
そういや昔、ここで泉に野球を教えてやったっけ。
始めは上手くボールがキャッチ出来なくて、すぐ拗ねてたっけ。
俺が上手く出来るように教えてやったら、本当に嬉しそうな顔で白球を追いかけてた。

「何でキャッチボールがいいなんて言い出したんだ?」
「別に」

泉はいつものように素っ気ない言葉だけを返してさっさとボールを投げる。
試合中みたいなキツいボールじゃなくて、捕りやすい山なりのボール。
だけど、分かるよ。
俺達は別に三橋と阿部みたいなバッテリーじゃないけど、ガキの頃から一緒に野球してたんだから。

「何か隠してる」

何となく球の感じで分かるんだ。
泉が喜んでるのか、怒ってるのか、悲しんでるのか、楽しんでるのか…。

「お前、なんか怒ってる」

それに…悲しんでる。
そんな球だ。

「………」

泉はしばらく俯いていた。

「何で怒ってんだよ」
「別に…」

一度見破ると目に見えてそわそわするのが泉の癖。

「別にじゃない」
「………」

だけど、泉は絶対自分からは嘘だって言わない。
何に対して嘘ついたのか、どうして嘘ついたのか、絶対言わないんだ。
内容はなんとなく分かるけど、違うと思いたい。

「いず…」
「べ…つに…なんでも、ないっ…!」

…こういう時は、分かってても言わない方がいい。
泉の嘘は強がりばっかりで、いつも泣きそうな顔で嘘つくから。
分かってる。
口に出して言って欲しくはないけど、分かって欲しいんだよな。
ぐちぐち何か言われるよりは、ちゃんと理解してるよって頭を撫でてもらうほうが嬉しいんだよな。

「ごめんな、泉」

本当は、一緒に野球したいんだよな。
けど、俺は応援で十分なんだ。
だって、選手として並んでたって追うのはボールばっかりで、泉の顔見えねーもん。
泉が野球やってる顔が一番好きだから、一番見える位置でずっと見てたいんだ。

「泉、ケーキ買いに行こう」
「は?」
「ケーキ買いに行こう、誕生日ケーキ」

泉はしばらく不機嫌な顔をしていたけど、俺のおごりだって言ったらしぶしぶついてきた。

「美味いかー?」
「美味いっ!」

食べる頃には泉の機嫌も直ってた。



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