今日は甘楽さんという人とチャットが出来た。話してみたところ、どうやら池袋の情報にかなり詳しいらしい。彼女以外に参加してきたメンバーもみんないい人だった。
 僕が転校してきたばかりだと入力したら、いろいろ注意書をしてくれた。やっぱり最近の池袋はちょっと危ないみたいだ……。でも気をつけてさえいれば巻き込まれたりしないという。そうは言っても、なんだか不安だ。現に僕はあの黒いバイクを目撃したんだから。
 そういえばさっき知り合いからメールがきていた。その知り合いというのも、友達曰く「関わってはいけない人物」だそうだけど……。
 メールの内容は、話したいことがあるって内容だった。直接会って話したいから池袋に来るように、と時間や場所も指定されていた。話したいことって一体なんだろう。僕が間違いなく興味を持ちそうな内容だと言わんばかりだけど。最初に僕に首無しライダーの話をしたのもあの人だから、もしかしたらそんな感じの内容かもしれない。明日は予定が何も無いので、行ってみようと思っている。

◇◆

「おはよう三好君。わざわざ悪いね」
「いえ、大丈夫です」
 臨也が軽く手を挙げてみせる。三好は少し遠くからそれを認めるなり、小走りで近寄ってきた。三好の動きは子犬に似ている、と臨也は思う。
 近くに来てから再度挨拶してきた三好からは、なにやら違和感を感じた。
「どうしたんだい、それ。風邪か何かかな」
 三好は私服の上にいつものパーカーを羽織って現れた。そこまでは普段通りなのだが、視線をそこから上へと動かすと違和感を放つ物体がある。三好は何故かマスクをしていた。
「そうなんですよ、喉もおかしくてカラオケにも行けません」
 三好はそう言って咳払いをした。
 三好の特徴のひとつに、あの人懐こい笑みがある。あの笑顔はパーカーとあわせて三好のトレードマークとも言える。マスクでそれが見えないというだけで普段と違う印象を与えるほどだ。
「そう、それはお大事に。……でも君は運がいいよ。今日ここに来たことでカラオケなんかよりずっと面白い話が聞けるんだから」
 やけに自信たっぷりに臨也は言う。あまり三好の風邪の心配はしていないらしい。三好の体調など興味が無いのだろう。
 これから自分が話す内容に、三好がどんな反応をするか。それが全てだ。
「面白い話……?」
 三好がほんの少し首を傾げる。果たしてそんなものがあるのか、と半信半疑といったところか。
 半分だけでも信じて興味を持ってしまっているのだから、これは臨也の期待通りの反応だ。
「そう。この間、君に首無しライダーの話をしたよね」
 三好はこくりと相槌を打つ。池袋の都市伝説、首無しライダー。偶然にも三好は実際にライダーを目撃したことがある。あれが何者なのかというのは、三好も気になっていた。何かこの間の話の追加情報だろうか。
「……興味を持ってくれたところ悪いんだけど、今日はその話じゃないんだ」
 と、思ったら違ったようだ。なんだ、と三好は少し落胆の表情を見せる。
「だけど、聞けばきっと興味が沸いてくると思うよ。首無しライダーなんかよりもずっとね。なんせ、池袋で最近生まれた新たな都市伝説だ。とっくに広まった噂より、今まさに大流行しようとしている噂。それにリアルタイムで関われるんだから、きっとずっと楽しいよ」
 そんな三好をなだめるように、臨也は言葉を並べた。そんなことをしなくても三好が話を聞くことは、臨也も分かっているはずだ。だとすれば、わざと勿体ぶっているのだろう。
「どんな噂なんですか?」
 臨也が待っていたのは、三好のこの一言だった。自ら知りたいと願い、関わろうとして発せられる言葉。
 満足したように臨也は笑みを浮かべ、ようやく口を開いた。
「三好君は、ドッペルゲンガー、って知ってるかな」



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