街はどこもかしこも光に溢れている。
今日はクリスマスだ、無理もないだろう。
その光の中、スザクはナナリーへのプレゼントのぬいぐるみを大事そうに抱え、俺の隣を歩いている。

「クリスマスだな」
「そうだね」

そうだね、か……。
スザクはクリスマスなど興味が無いのだろうか。
先程からイルミネーションもまったく見ていないようだし……。

「一昨日、ルルーシュにいきなり今日の予定を聞かれた時は驚いたよ。
クリスマスは暇か、なんてさ」

一昨日突然聞いたのは確かに悪かったかもしれない。
本当はもっと早く声をかけたかったんだが、最後の最後までスザクを誘うべきか悩んでしまったんだ。

「いや……お前を誘っていいものか分からなかったからな」

え?とスザクが目を丸くした。

「どうして?」

はっきり言って、俺の心配はとるにたらない物に違いない。
だが、それでも、考え始めると止まらなくなった。
考え過ぎるのは悪い癖だと以前ナナリーにも言われた覚えがある。

「笑わないか?」
「笑わないよ」

本当だろうか。
自分でも馬鹿馬鹿しいと思っている。
しかし、スザクに笑われるのは……。
……これか、悪い癖は。

「もしかして仕事があるかとか心配した?
だったら心配ないよ、ちゃんと全部片付けて……」
「それもあるが、そうじゃないんだ」

確かにいつも忙しいスザクの予定も心配したが、そんなことではない。
なんだろ?とスザクはますます悩んでいる様子だ。

「お前は日本人だろう?」
「そうだよ?」
「クリスマスは、キリストの誕生日を祝う日じゃないか。
ましてやお前は神社の息子だし……外国の宗教を祝うのはどうかと……」

俺がそこまで言ったところで、スザクが吹き出した。

「ぷっ……あっははははっ!」
「な……!わ、笑うな!何がおかしい!」

笑わないと言ったくせに、スザクは腹を抱えて笑っている。
ふつふつと怒りがわいてきた俺は、スザクを無視して歩き出した。
すぐにスザクが小走りで隣に追いつく。

「ごめんごめん、だってまさかそんなこと言われると思わなかったから」
「……で、どうなんだ。
不都合じゃないのか?」

まだ若干怒った声で問うと、スザクはにっこりと笑って「問題ないよ」と言った。

「だって僕、あんまり神様とか信じてないしね」
「おい、そんなこと言っていいのか?」

日本には八百万の神様がいるんだろう?
俺がそう言うと、スザクはまた笑った。

「いない、とは言わないけどあんまり信じてないんだ。
だからクリスマスとかは楽しく過ごせればそれでいいんだよ」

君が誘ってくれたみたいにね、などと付け足し、スザクはなんでもなさそうにそう言った。
どうしてこいつはこういう台詞を簡単に言ってのけるんだ。
ため息を吐き、俺は歩くペースを緩めた。
もうすぐクラブハウスに着いてしまうからだ。
準備が終わる予定時刻までは、まだ時間がある。
少しでも会話を伸ばし、時間を稼がなくては。

「ところで、お前の言う『楽しく』とは一体どういう過ごし方なんだ?」
「え?えーと……」

スザクは困ったような顔になり、腕を組んだ。
そんなに真剣に考えるようなことでもないだろうに。

「そうだね、まず君とナナリーがいて……美味しいケーキがあって……」
「他には?」
「ナナリーが僕のプレゼントを喜んでくれて……それから、えーと……」
「なんだ、たったそれだけか?」

欲のないやつだな。
俺は呆れてしまい、苦笑した。

「だって、僕は君とナナリーがいればそれで楽しく過ごせるんだから」
「そ、そうか……」

俺とナナリー、か。

「ルルーシュって意外と顔に出る?」
「ん?」
「今、すごく嬉しそうな顔したから」

顔に……出したつもりはないんだが。
俺は一応ふい、と顔を背けた。
もうクラブハウスは目の前だ。
このまま時間を潰しておこう。
俺は出来る限りゆっくりと歩いたが、ついに扉の前にたどり着いてしまった。
まずい、少し早すぎたか。
その時、ポケットの中の携帯が震えた。
準備完了の合図だ。
ギリギリだったな……。
扉を開ける前に、俺は振り返り、確認した。

「スザク、『楽しいクリスマス』は俺とナナリーとケーキだったな」
「うん」
「ならば、条件はすべてクリアだ」

俺は扉を開けた。
パンパンとクラッカーの音が響く。
降り注ぐ紙吹雪の中、スザクは目を丸くしていた。

「メリークリスマス、スザクさん!」

少しはしゃいだ様子のナナリーが、テープの垂れ下がったクラッカーを手に笑っている。
隣で咲世子が恭しく頭を下げながら言った。

「メリークリスマス、スザク様。
奥に紅茶とクリスマスケーキの用意がしてあります。
ケーキはルルーシュ様とナナリー様がお作りになったものですから、とても美味しいですよ」

スザクは驚いたように笑っている。

「あはは、驚いたな……」
「俺とナナリーからのクリスマスプレゼントだ」

俺の言葉に、スザクは恥ずかしそうに頭をかいた。

「じゃあ、これは僕から。
メリークリスマス、ナナリー」

スザクがナナリーにぬいぐるみを手渡す。
ナナリーはそれを嬉しそうにぎゅっと抱きしめ、「ありがとうございます」とはにかんだ。

「それから、これはルルーシュに」

俺、に?
聞き返すと、スザクは頷いた。

「ナナリーのぬいぐるみのキーホルダー版なんだけど……やっぱり恥ずかしいかな?」
「いや、ありがとう」

よく分からない生物のキーホルダーが俺に手渡される。
確か今学生を中心に人気があるとかなんとか……。

「お兄様、お揃いですね」

だが、ナナリーは喜んでいるようだ。
ナナリーが喜んでいるのなら何の生物でも別にいいだろう。

「あ!」

後で鍵にでもつけるか、と考えていた俺を遮り、スザクが大声を上げた。

「どうした、スザク。
何か忘れ物でもしたのか?」
「うん、すっかり忘れてた……!」

忘れてた?何を?
まさかまだ仕事が――

「メリークリスマス、ルルーシュ!」
「……え?」

今、スザクはなんと言った?
何を忘れていたんだと言った?

「だって、ナナリーには言ったのにルルーシュには言うの忘れてたからさ」

そんなことか……。
俺は盛大にため息を吐いた。
そういえば俺もまだ言っていなかったな。
スザクがいやに笑顔でこちらを見つめている。
仕方がない、言ってやるか。

「……メリークリスマス、スザク」



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