僕の前でだけ、無防備になってもいいよ。



unarmed



「兄さん、朝だよ」

部屋には監視カメラが付いているので、僕はこの間までルルーシュを「兄さん」と呼ばなければならなかった。
今は別にその必要はないけれど、そう呼ぶ方がなんだか合ってる。

「兄さん?」

ルルーシュは昨日随分遅くまで学園の宿題をしていたらしい。
珍しく時間になっても起きないので、僕が起こしに来たという訳だ。
黒の騎士団と学園の二重生活もあるし、疲れてるのかもしれない。
このまま休ませてあげたいけど、もし寝坊なんかして誰かにゼロの疑いを持たれたりしても困る。

「兄さんっ!」

仕方がないので、僕はルルーシュの布団をひっぺがす作戦に出た。

「…………」

……僕はしばらくルルーシュの姿に目を奪われていた。
スースーと小さな寝息を漏らしながら、まるで胎児のように身体を丸めて眠るルルーシュ。
ゼロどころか、年相応にも見えないくらい無防備な姿。
……本当はこんなに弱いんだ。
こんなに弱いのに、こんなに弱いから、あらゆる手段を用いて武装して、自分を守っている。
ゼロという鎧、黒の騎士団という盾、ギアスという剣。
そうまでして妹を守りたかった、なんて。
可哀想な弱い生き物。
普段の余裕の微笑みはまやかしで、多分こっちが本当の姿。
細くて弱くて儚くて、とても愛しい。

「……はは」

……愛しい、なんて、言えるわけ、ない。
好き、大好き、愛してる。
兄さん、好き。
そう言えたらどんなにいいか。

「言っても無駄か」

だってルルーシュが好きなのはどうせあいつなんだから。
無防備な兄さんを傷付けた、あいつ。
どうしてあんなやつがいいのか、僕はさっぱり分からない。
どうせまたあいつはルルーシュを傷付けるんだ。
それなのに、どうして。

「……兄さん」

大好きだから、これ以上苦しまないように、僕があいつからルルーシュを守らないと。

「ルルーシュが殺すな、って言ったから辛うじて生かされているのに。
そうとも知らないで、あいつは」

僕のギアスがあればいつだって簡単に、あいつを殺せるんだ。
そう、いつだって――……

「ん……」

不意にルルーシュが目を覚ました。
僕があいつを殺そうとしていたことを見透かされたんじゃないかと、下らないことを考えてしまう。

「ロロ……?」
「おはよう、兄さん」

今日も、僕が守ってあげる。
僕は監視カメラの向こうのヴィレッタ「先生」に微笑んで、ギアスを使った。
寝起きの無防備な姿でルルーシュの動きが止まる。
制限時間が終わってしまう前に、何か言いたげに少し開いた唇に僕のそれを重ねる。
今はこんなことしか出来ない。
堂々とキスするのは、あいつを殺してから。

「早くしないと遅刻するよ」

ギアスが解け、再び動き出したルルーシュに、僕は微笑みかけた。
こうして今日も僕の一日が始まる。



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