なんてことはない。
これはただの病気、だ。
stockholm syndorome
利用してやるつもりだった。
利用して利用して、捨ててやるつもりだった。
俺の家族は最愛の妹一人なのだから。
偽りの弟。
弟なんて呼ぶのもおぞましい他人。
少し兄弟だなんだと言ってやったらすんなり俺の下僕になった。
兄さん、だと?
笑わせる。
記憶が戻って以来俺は兄弟だと思ったことは一度も無かった。
――無かった、のに。
俺を守って死んだ弟。
その最期の姿を見て、涙が出そうになったのは何故だろう。
死ぬな、と願ったのは何故だろう。
俺の大切な人の場所を、命を、ことごとく奪った人間なのに。
偽りの弟、赤の他人だ。
そんな人間の死が、どうしてこれ程までに辛いのだろう。
利用し続けてきた罪悪感?
……そんなモノは、無い。
それとは違う何かのせいだ。
――ああ、そうだ。
これは何かの、悪い病気なんだ。
そうでなければ偽りの家族に対する情など沸きはしない。
俺の大切な家族は、たった一人の妹だけだ。
だから、これは一種の病気なんだ。
追い詰められたせいで、何かの病気にかかってしまったんだ。
それだけだ、間違いない。
「ロロ、お前もきっと病気だったんだよ」
偽物の兄を慕うなんて、俺以上に重い症状じゃないか。
俺達は二人そろって病気になったんだ。
一緒に住んでいたんだ、感染したっておかしくない。
最期の最後に、おかしな病気をうつされたものだ。
――亡骸を抱きながら、笑い出したいような、泣き叫びたいような……そんな衝動に駆られるなんてな。
下らない。
早く治ってしまえばいいのに。
しかし、この病に薬は無いのだろう。
……あったとしても、偽りの兄を守って死ぬような馬鹿と、
偽りの弟の死に涙が出そうになるような馬鹿にはつける薬など無いのだろうな。
俺はかぶりを振って、流れかけた涙を振り払った。
(さよなら、ロロ・ランペルージ)