本当は
ずっと前に気付いてたんだ。

ルルーシュがゼロだって。

ずっと一緒にいたんだ。
ルルーシュの嘘くらい簡単に見抜けるよ。
ルルーシュはよく僕やナナリーに嘘をついて危ないことしてたから。

そう、ゼロの正体はルルーシュ。
これは間違いない。
見た訳じゃないけど、僕には分かるよ。
いつから気付いてたかっていうとね、実はゼロが僕の前に現れた時から。
あははっ、つまり最初っからだね。
ゼロが現れた瞬間に僕は分かったんだ。

「ルルーシュ、わざわざ助けに来てくれたんだ」

ってね。
だって僕がルルーシュを他人と間違える訳ないでしょ?
ずっと見てたんだ。
目を閉じるだけではっきり君が浮かんでくるくらいね。

君がナナリーや自分自身を捨てた父、
及びブリタニアに復讐をするつもりだってすぐ分かったよ。
まあ、僕はそれでもいいと思ってるんだけどね。今は。
前はそんなのいいわけない、止めなければって思ってた。
あ、こんなこと言うとまた偽善者扱いされるかな。
前は、だよ。今とは違う過去の僕の話。

もしかしてルルーシュは利用され操られてるのかもしれない、
って思って黒の騎士団のメンバーを狙って、君を上手く逃がしたりね。
でも君は自分の意思で戦ってるみたいだったから、
今は君を止めようか迷いながら戦ってる。
あ、そもそも君がこっちに向かって来るから戦うんだよ?
だってルルーシュ、本気で僕を殺そうとするんだもん。
で、僕はこのまま君が信じる道を進めばいいと思い始めてたんだけど、

だけど。

ユフィが死んだんだ。
殺したのは、ゼロ…つまりルルーシュだった。

今思い出すと、あの時の僕は本当に混乱してた。
僕はユフィのことも大切に思っていたしね。そしてその人を殺したのは大切な君で…。
あの時は君を憎んだよ。
それでもまだ

「ルルーシュは利用されてるんだ。
元凶である奴らを殺せばきっと元に戻る」

なんて考えてたんだけど。
僕はルルーシュ以外生きようが死のうがどうでもいいんだ。
あ、だけどナナリーはいなくなると君が悲しむから出来ればいる方がいいかな。
だから、君を操ってる奴らを殺せばはいおしまい。
それでいいと思ってた。

あ、そうだ。

言い忘れてたけど、僕は怒ってるわけじゃないからね。
ユフィのことも大切だったけど、君も大切…いや、それ以上に思ってるから。
僕はもう全部どうでもいいんだよ。
…なんて言っても、実は許せないんだ。
怒ってないけど、許せない。
ただ君が傍にいてくれればよかったのに。
どこからおかしくなったのかなんて考える気も起きないけどさ。

僕の傍に君がいる。
それが僕の全てだったんだよ。

…ごめんね、僕は自分のことしか考えてないんだ。
僕がしてきたことの中には君が悲しんだこともあるだろう。
でもそれはお互い様。
僕も君がしてきたことで悲しくなったり、苦しくなったり…死んでしまいたくなったりしたから。
当たり前だよ。
人間ってそういう生き物だから。
どんなに頑張ったって完全に相手を理解することは出来ない。
僕は君のことをずっと見てきたつもりだけど、どこかに僕の知らない君もいるだろう。
僕が君をどんなに想ってたって完璧に理解は出来ない。
僕だけじゃなく、誰もね。
やっぱりお互い様。
仕方のないことなんだ。

――だけど、思い付いたんだ。

「一体何をだ…?」

マントをはおったルルーシュが眉を寄せる。
白い顔で頬だけが真っ赤になっているのは、さっき僕が殴ったせいだろう。

「ああ…、俺を逃がしてくれる方法なら有難いんだが」

ぺっ、と赤い血ヘドを地面に吐いて笑うルルーシュ。
僕は白い首筋を伝う血を指で掬い取った。

「そういうわけにはいかないよ」

僕が呆れたように溜め息をつくとつられたように苦笑するルルーシュ。

「僕のモノになってよ、ルルーシュ」
「お前のモノ…だと?」

ルルーシュは怪訝そうな顔をした。
まぁ…当たり前か。

「分かり合えないなら、僕のモノになってよ」
「スザク…?」
「漸く分かったよ。
完全に分かり合えないなら…僕のモノにすればよかったんだ」
「何を、言っている…」

まだ分からないのか。
僕は今掬い取ったルルーシュの血を舐め、クスリと笑った。

「君にも分かるように言ってあげようか?」

君に君という意思があるから、僕のモノにならないんだ。
なら、僕のこと以外考えなくなればいい。

「君を殺せば、君は僕のモノだ」

ルルーシュの顔からさっと血の気が退いた。

「漸く分かったんだよ。
そうすれば君は僕のモノなんだって。
それにずっと一緒にいられる。
何よりも、君はどうせ死刑になるだろうから、
君も命を奪われるなら名前も知らない奴じゃくて僕の方がいいでしょ?」
「何を馬鹿なことを…」
「僕は本気だよ」

ナイフを首に突き付けるとルルーシュは小さく悲鳴を上げた。
信じられない、という表情で僕を見ている。

「何を考えてるんだ…!?
やめろ、スザク…!」

声が震えている。
殺されることに対して怯えてるのか、それとも僕に対して怯えてるのかは知らな
いけど、心から恐怖しているらしい。

「ごめん、ルルーシュ」

僕は自分のことしか考えてないから。

「一つだけ聞かせてくれ…」
「何?」
「…お前を…そんな風に狂わせたのは…俺、なのか…?」
「…そうかも知れない」

無意識か目に涙を浮かべるルルーシュに、僕は笑顔を返した。
少し残酷かもしれないけど、きっと…

「きっと、そうだ」

僕の言葉を聞いてルルーシュは、はは…と力無く笑った。

「なら…当然の罰なのかもしれないな…」

僕は答えなかった。
無言でナイフを置き、ルルーシュの首に手をかける。

「スザ、ク…」
「ごめん、ね…ルルーシュ…」

ごめん、ごめんね。
僕は他にどうすれば君を愛せるのか分からなかったから。

「大丈夫」

ルルーシュがそっと僕の頬を撫でる。
今から自分を殺す人間に対する態度とは思えない、優しい手だった。

「ごめんね、ルルーシュ。
愛してる」

ルルーシュがまた少し苦笑するのを見て、僕はゆっくりと腕に力を込めた。



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