ルルーシュはゼロの部屋の前に立っていた。
傍の時計は日付が変わる十分前を示していた。
日付が変わったら、とは言われたが自分もゼロを祝いたい。
青い袋についている黄色いリボンを指で弄りながら、入っていいものかとルルーシュは未だ扉をノック出来ないでいる。
さすがに十分前は早すぎたかと悩んでいると、中からノックが聞こえた。
「ルル、いるのか?」
どうやらゼロにはお見通しらしい。
ルルーシュは気恥ずかしく思いながら、返事をした。
「すまない、少し早く来すぎたか?」
すぐに「いや」と扉の向こうから言葉が返って来たが、若干声に焦りが見えた。
何か用意でもしているんだろうか。
ルルーシュはクスリと笑って扉にもたれかかった。
「日付が変わるまで外で待ってる」
「ああ、すまない」
一体、ゼロは中で何をしているんだろう。
「部屋の片付け……はゼロに限って有り得ないな……」
いつ見ても彼の部屋は整頓されていて、どこにも無駄が無い。
そもそもゼロが、散らかった部屋に自分を呼ぶとも思えない。
彼なら先に片付けてから呼びに来るんじゃないだろうか。
ルルーシュが首を捻って考えていると、不意にゼロの声が聞こえてきた。
「ルル、待たせたな」
もう大丈夫だ、と言うゼロ。
時計は未だ五分前である。
「まだ日付は変わっていないが、別に構わない」
ルルーシュの考えを見透かしたようにゼロが言う。
そうだな、とルルーシュは頷き、袋を後ろに隠しながら扉を開けた。
ふわり、と甘い香りが漂ってくる。
「少し飾り付けが遅れてしまったんだ」
小さなテーブルの上に大きなケーキが置かれている。
白いケーキには色々なフルーツが美しく輝いている。
甘い香りの正体はこれらしい。
ケーキナイフやフォークの準備も万端だ。
傍にはカラフルなロウソクが置いてあり、まだ飾り付けが終わっていないことを示していた。
「少し待ってくれ」
ゼロの細長い指が、ケーキにロウソクを立てていく。
ルルーシュもそれを手伝い、ケーキがより可愛らしいものになった。
「もうすぐ日付が変わるな」
ルルーシュは時計を見ながら呟いた。
ゼロの部屋の時計は一時間ごとに音が鳴るので、そんなに神経質に時計を見る必要はない。
そう分かっていても、やはり気になってしまう。
時計とはおかしなもので、見れば見るほど時間が進むのが遅くなっていく気がする。
そこで目の前のフルーツケーキに視線を移すのだが、やはり時計が気になってしまう。
そんなルルーシュの様子に笑いながら、ゼロは時計を見つめた。
秒針がゆっくりと進む。
「ルル、もう少しこっちへ来てくれないか」
「ん?ああ」
この場所では何か不都合があるのだろうか。
理解出来ないままルルーシュはゼロの隣へ立った。
「あと十秒」
秒針がカチカチと音を立てて進む。
九、八、七、六、五、四、三、二、一……。
「ゼロ」
時計からオルゴールの音が流れ出す。
日付が変わった。
「おめでとう」
「ああ、おめでとう」
互いにそう言い合った後、二人は同時に「ありがとう」と告げた。
「プレゼントがあるんだ」
ルルーシュは後ろに隠していた袋を取り出した。
「期待するなよ」
苦笑しながらルルーシュは言う。
彼の手作りの何かだろうか。
開けてもいいか、と問うと、ルルーシュはこくりと頷いた。
中から出て来たのは、手編みのミトンだった。
「初めは指も作ろうと思ったんだが、間に合わなくなって……」
ルルーシュがぼそぼそと言い訳を始める。
何も文句は言っていないのに言い訳を始めるルルーシュが可愛らしくて、ゼロはルルーシュの頭を撫でた。
「まさか貰えるとは思わなかったからな」
「俺だってプレゼントくらい用意するさ」
ルルーシュが赤くなってそっぽを向いた。
あまりにも初々しい反応に、もっとからかってみたいという感情が芽生えて来る。
ゼロはルルーシュの赤く染まった頬に軽く唇を落としてみた。
「なっ……!」
案の定、これ以上ないほど真っ赤になるルルーシュ。
何をするんだと喚きながらも、嫌がっている様子はない。
本当は誕生日プレゼントと称して唇を奪ってみるつもりだったが、まさかルルーシュから何か貰えるとは計算外だった。
嬉しいような残念のような、ゼロは少し複雑な気分だ。
「……もういい、さっさとケーキを切れ」
それでも、照れ隠しにケーキを指差すルルーシュを見られたのは悪くない。
自分はやはり幸せだとゼロは思った。