『今から行ってもいい?』

その電話があったのは十一時を回って少したった時だった。
何を考えているんだと叫びたい気持ちを抑えて、それを了承してから三十分。
スザクがルルーシュの部屋を訪れた頃には既に日付が変わる直前だった。

「何の用だ」

ルルーシュはパソコンから目を離さずに言った。
どうやらコンピューターを相手にチェスをしているらしい。
随分とつまらなそうな顔が、彼の心境を物語っていた。

「用があるのはルルーシュの方だと思うけど?」

まるで我が家のように断りもなく、スザクはベッドに腰を下ろして笑った。
ルルーシュがちらりとスザクを睨む。

「どうして今日来なかったんだ?」
「何が?」
「会長が今日パーティをやると前から言っていただろう。
どうして来なかったんだ?」

ああ、とスザクが曖昧に頷く。

「だから、用があったんだ。それで……」
「今日が何の日か分かってるのか?」

ガタンと立ち上がりながら言って、ルルーシュは慌てて自分の口を押さえた。
思った以上に情けない声になってしまい、涙が出そうになる。
自分は何を言っているんだろう。
スザクに誕生日を祝ってもらう約束をした訳じゃない。
ただ、毎年のことだから、今年もそうだと思っていた。

「ルルーシュ?」

スザクが心配そうに顔を覗き込んでくる。
ルルーシュはますます情けなくなり、俯いた。
泣きそうな酷い顔をなんとか隠したかった。

「ごめんね」

スザクがポンポンとルルーシュの背中を叩いた。
違う、と言おうとするが、声と一緒に涙も溢れてしまいそうでルルーシュは口をきゅっと一文字に結んで首を横に振った。

「これを買いに行ってたんだ」

安物だけど。
スザクが苦笑しながらルルーシュの手を取る。
そして、細い指に銀色の指輪をはめた。

「スザク……?」
「誕生日おめでとう、ルルーシュ。
指輪が出来上がるのに時間がかかったみたいで……」

ルルーシュは指輪を外し、まじまじとそれを見た。
裏側には今日の日付が彫られている。
スザクはこれを買うために、パーティに参加しなかったらしい。

「す、すまない……」
「気に入らなかった?」
「そうじゃない!」

さっきあんな態度をとってしまったことを謝っているんだ、とルルーシュが照れながら言う。
そんなことを気にしているルルーシュを見て、スザクは思わずクスリと笑った。

「ごめん、もう日付変わっちゃったね」

二人で誕生日を過ごしたのは五分程度だったが、ルルーシュは微笑んだ。

「寝るまでが今日だ」

なんて屁理屈だろう。
スザクは思わず笑ってしまった。
そして、昨日言ったことを思い出す。

――僕は最後にしてほしい。その方が印象に残るだろうから。



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