先程とは打って変わって、ナナリーとルルーシュの間には和やかな雰囲気が広がっていた。
あの腹の中が暗黒騎士や、ヤンデレの弟や、人を虐めるのが趣味の確信犯と一緒にいてはこの雰囲気は決して味わえない、と言っても過言ではないだろう。
万が一、ナナリーも似たような行動に出たらどうしようかと心配していたが、杞憂で済んだようだ。
「お兄様、どうですか?」
「ああ、似合うよ」
ナナリーがカエルの着ぐるみパジャマを着て微笑んでいる。
愛する妹の可愛らしい姿に、思わずルルーシュの頬が緩む。
「見えないので分からないのですけど、きっと可愛らしいパジャマなんですね」
フードについたカエルの顔を撫でながら、ナナリーがふわりと笑った。
「そうだな」
ルルーシュも同じようにカエルの頭を撫でる。
モコモコとした手触りのそれは、思ったより暖かそうだった。
「気に入っていただけましたか?」
ふふ、とナナリーが柔らかい笑顔を見せた。
見た者は誰もが安らいでしまいそうな、愛らしい笑顔。
しかし、ルルーシュにはほんの僅かに嫌な予感がしていた。
「実は……お兄様の分もあるんです。
咲世子さん、お願いします」
「はい、ナナリー様」
咲世子が黄緑色の何かを持って現れる。
ナナリーが手にしたそれは、男性用カエルの着ぐるみパジャマだった。
ピキ、とルルーシュの笑顔が引きつる。
「どうかしましたか?」
受け取らなければ。
しかし、これを着ろというのか。
ルルーシュは頭をフル回転させ、どう切り抜けるべきか考えていた。
「……あの……迷惑、ですか?」
「いや!ありがとうナナリー」
が、そこはルルーシュ。
シュンとした妹の顔を見て、断れるはずがない。
「着て下さるのですね」
「ああ、勿論」
そうだ、ナナリーは目が見えないのだ。
ならば誰にも見られずに着れば、恥ずかしいことなど一つもないはずだ。
「じゃあお兄様、もしよろしければ……ミレイさんに呼ばれた時間まで一緒にお昼寝しませんか?」
その言葉の意味は明白である。
これを着るのか、という迷いもナナリーの為なら一瞬だ。
「そうだな」
着替えてくるよ、とナナリーに断ってルルーシュは部屋へと向かっていった。
そのため、ルルーシュは知らない。
「咲世子さん、それではお兄様の写真、お願いしますね」
「勿論です。いつかナナリー様の視力が戻った時のためにも、きっちりアルバムに納めておきます」
二人がそう言って笑い合ったことなど。