「ルルーシュ」
「お、おいC.C.……っ!」

服を着替えるのが先だとルルーシュはなんとかC.C.から逃れようとするが、彼女がそれをさせてくれるわけがない。
徐々に近くなるC.C.の顔に慌てているせいか、ほぼ押し倒されている体制になっていることには気付いていないらしい。

「何を怯えているんだ?
私はただ、誕生日プレゼントを渡そうとしているだけだぞ?」
「普通に渡せないのか、お前は!」

ルルーシュの言い分はもっともだが、そんなことが傍若無人なC.C.に通じるはずがない。
C.C.はさっと例の小瓶を取り出し、素早く蓋を開けた。
そして、なんだそれは、と言いかけて開いたルルーシュの口に中の液体を流し込む。

「んっ……げほっ!な、何を……!」
「ただの薬さ。
なんの薬だと思う?」

C.C.がククク、と喉の奥で笑う。
不意に口に入れられたため、思わず飲み込んでしまったルルーシュは何の薬なのかと考えをめぐらせた。
さすがに毒薬の筈はないだろう。
では一体なんの薬なのだろうか。

「どうだ?」
「何がだ!」

C.C.がやけにニヤニヤと笑っているのが気にかかる。
わけがわからないものを飲まされた、という恐怖と苛立ちからルルーシュの口調が焦ったものになっていくのを面白がっているらしい。
焦燥するルルーシュとは対照的に、C.C.はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「そろそろ身体が熱くなってきたんじゃないか?」
「なっ……」

まさか、とルルーシュは息を飲んだ。

「気分はどうだ?ルルーシュ」

そう言われると、頭がクラクラしてきた気がする。
冗談じゃない、ルルーシュは舌打ちした。
さっさとこのふざけた服を着替え、ナナリーの元へ向かいたいというのに。

「随分弱いらしいな、こんなに顔を赤くして」

C.C.がクスクスと笑いながら、長いウィッグを指に絡ませて遊んでいる。
反論しようにも、自分で分かるくらい顔が熱い。
まさか、さっきのは媚薬か何かだったんじゃないか。
ますます冗談じゃない。
ルルーシュは自分の上に覆い被さっているC.C.をなんとか押しのけようと試みた。

「フフ、これだから童貞ボーヤは」
「五月蝿い……!」

耳元で罵られ、思わず身体に痺れが走る。
今すぐに逃げ出したいが、それはもうほとんど不可能かもしれない。
それでも、逃げなければ大変なことになる。
ルルーシュの頭が警告していた。

「ひっ!?」

その警告に耳を傾けている間に、C.C.の手がするりと服を脱がしていく。

「や、やめ……!」
「着替えたかったんだろ?」

だから着替えさせてやってるんじゃないか、とC.C.が何とも思っていない様子で言う。
しかし人の手によって服を脱がされるということは、ルルーシュにとって耐え難いことに過ぎない。
じわり、と自然に涙が滲んで来た。
それを見たC.C.は目を丸くしている。

「……虐めすぎたか?」

可愛らしく小首を傾げるC.C.に、ルルーシュはきっと唇を噛んだ。

「お前が、変なものを飲ませるから……!」
「失礼なことを言うな、あれはただの薬用酒だ」

言いながら、C.C.がベッドから降りる。
ルルーシュは、口をあんぐりと開けてC.C.を見た。

「確かに割っていないからアルコールは少々高いが、まさかあれだけで酔うとは思わないじゃないか」
「ち、ちょっと待て!」

ルルーシュが慌てて口を挟む。

「じゃあ、身体が熱くなったのも、頭がクラクラしたのも……」
「強い酒を飲んだからに決まってるだろう」

それを聞き、ルルーシュはますます真っ赤になった。
ワンピースとウィッグを脱ぎ、普段の服に袖を通しながら、今までのことを振り返る。
まさか、あれがただの酒だったとは。
自分は、もっと酷いものを飲まされたのではないかと……。

「ん?何を飲まされたと思ったんだ?」

ニヤリ、とC.C.が笑った。
やはり確信犯か、とルルーシュは悔しそうな顔をし、逃げるようにナナリーのところへ向かった。



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