「ゼロ…いや、ルルーシュ」

私は雨にうたれ、壁にぐったりと身体を預けたルルーシュに近寄った。

「残念だったな」

お前の負けだ。
力も地位も…大切なものも、すべて失ったお前に勝ち目はない。

「俺は死ぬんだな」

私は頷いた。
思えば、私は人の死ばかり見ている気がする。
しかしそれは私には永遠に分からないものだ。
いつも隣にあるのに、私自身には存在しないもの。
それが、死。
なんと滑稽なのだろう。

「どうせ死ぬならこんな雨の中じゃなく…昔見たどこまでも続くあの…」

思えばこの男は過去に依存し続けていた気がする。
向日葵、か。
死に場所を選びたいなんて、なんと愚かだろう。

「人の死は何度も見た。
だから私にとって、お前が死ぬ事はたいした事じゃない」

自分に言い聞かせるように私は呟いた。
こんなもの、私の見た歴史の一部に過ぎないのに。
ルルーシュは、私が見てきた中でも愚かで、とても可哀想な人間だった。
運命に翻弄されそうになり、それでも運命を従えようとした。
でも、お前の腕はあまりに短すぎた。
結局この男は運命に翻弄され続けたのだ。

「ルルーシュ、死ぬのはどんな気分だ?」

それは私には無いもの。
絶対に理解出来ないもの。
かといって、自分で味わいたくはないな。
知った瞬間には私の意識は途絶えてしまう。
それでは遅すぎる。

「恐ろしいか?それとも痛いか?」

ルルーシュは苦笑し、たった一言だけ告げた。

「不思議と、涙が出そうだ」

それは目的を達成出来なかった悔し涙?
それとも運命から解放されることへの嬉し涙?
それを聞く前にルルーシュが口を開いた。

「C.C.…いや、」

そしてルルーシュは私の本当の名を呼び、ありがとう…と言った。
雨にかき消されそうなくらい小さな声だったのに、私にははっきり聞こえた。
そして

「すまない」

それが最後の言葉だった。

「ルルーシュ?」

息をしていない。
心臓も止まっている。
あぁ…死んだのか…。
不思議と私は冷静だった。
閉じられた薄い紫の瞳。

「もう見られないのか」

綺麗な宝石のような瞳。
それは今朽ちた。

「ルルーシュ、私は…」

ひとつだけ思いついたことがある。
傍観は許されても、けして介入を許されない私。
それは私が私自身に定めたルール。
…私は今、それを破ろうとしている。

「ルルーシュ、暗い世界に独りは孤独だろう。
私が今友達を連れていってやるからな」

そっと瞼に唇を落とす。
凛と強い意思を携えた瞳、私の与えた力を持った瞳、その両方に。

「おやすみ」

紫氷色に煌めく瞳が鮮やかに朽ちる世界と
堕ちていく夢に唇を重ねて
残酷な――…

「私に死が付きまとうのではなく、私自身が死神だったのかも知れない…」

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