僕達は無様にも踊り続けている。



paranoia



「まるで人形だな」

私の言葉に、ゼロは怪訝そうな顔をした。

「私がか?」
「そうだな、まるでお前は人形だ」

ルルーシュから型を取って作られたような人形。
そこに立っているだけで目を引く素晴らしい人形。
そして彼の為なら「壊れる」ことすら構わない、人形。

「お前はルルーシュに操られた人形じゃないか」

違うのか?
私が問うと、すぐにゼロは「違う」と返した。

「私は、私の意志でルルの意志に従っているだけだ」
「それすらも仕組まれている可能性は?」

ルルーシュの意志に従っていると「思わせられてる」、
コントロールされた人形。

「ならお前もルルに踊らされているかも知れないな」

ゼロはクスリと笑って言った。

「私は操り手がルルならば、何の不満も抱かない。
いや、むしろルルが私を操るべきだ。
私を自分の人形として操り、手駒としてくれるなら――」
「それがお前の幸せ、か?」

見上げた忠誠心だ。
あるいは、別の何かか?

「私にとって最も重要なのはルルが幸せになることだ。
その為なら私はもちろん、C.C.…お前さえも利用するべきだと考えている」
「ほう、お前も私を利用すると」
「ルルの幸せの為ならな」

ルルの幸せ。
それだけしか無いのか。

「私には、それ以外に価値など存在しないのだから」
「…自ら望んで手の平で踊るか…エゴイストだな」

…忠誠心などではない。

「存在理由のひとつも自分で見つけられない人間が、
自分の存在を確立するために進んで誰かの人形になろうとする。
なんと言う症例かは忘れたが…まるで寄生虫だ」

止まり木が欲しいだけではないか。

「『自分の意志で踊っている私をルルが私を踊らせていると思っていると考えている私』もルルの手の平の上で踊っているに過ぎないとしても…」
「ややこしいことを言う…。
…過ぎないとしても?」

ゼロは歪んだ笑みを浮かべ、答えた。

「それがルルの幸せに繋がるのならば、別に構わないさ」

生への執着。
そして、依存。
神を狂信するにも似ている「それ」が、この男を「壊して」いる。

「そのルルも誰かの手の平の上で踊っているんだ。
さらにその誰かも別の誰かの手の平の上…」

まるでトーナメントだ。

「最終的に頂点に立って全てを踊らせているのは誰なんだ?」
「非科学的だが『神』という言葉を使う他説明のしようが無いな」
「それもまた哲学方面な話だな」

ゼロはまだ言葉を続ける。
一つの世界の在り方の仮説を。

「すべての物に優劣があるように、頂点のものにもアキレス腱はあるものだ。
そうして考えると頂点に立つ存在がいなくなる。
ならば頂点に立つのはどこにも弱点のない完璧な存在となるが、そんなものは存在しない。
だから『仮定エックス』として人は神という言葉を使うのだろうな」
「くだらない…お前が神にでもなるつもりか?」
「いや」

それなら私ではなくルルーシュだとゼロは笑う。
そして、何かを諦めたような口調で小さく呟いた。

「所詮、人間はそうやって踊るしか能が無いということだ」

――ゼロ!ゼロ!

「行こうか、C.C.」

ゼロは口元に笑みを貼り付け、腰を上げた。

――ゼロ!ゼロ!

民衆の声が響く。
彼の周りには黒衣を身に纏った者達と、そしてその傍らに、唯一白を纏う私がいる。
彼は王の玉座に頬杖をつき、ため息を吐きながら哀れな民に目を向けて
指導者たる彼が右と言えば右、左と言えば左を向く愚かな者達を一瞥し、
私に気だるげな目配せをしてから立ち上がり、
そこから見える全てのモノを侮蔑を込めた目で眺める。

踊っている。
ここから見える全てのモノが。
ゼロの手の平で、全てが踊っている…。

「なんてくだらない世界だろうな、C.C.」

そんなくだらない世界の為に、彼は踊らざるを得ないのだろう。
ルルーシュという唯一人の少年が幸せでいられる小さな箱庭の為だけに。



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