この時期の朝は、寒い。



late riser



「さむ……」

空調をつけていないせいか、随分と部屋が冷え込んでいる。
その寒さのせいで僕は目が覚めてしまったらしい。
カーテンの隙間からちらちらと光が差し込んでくる。
ああ、もう朝か……。
時計を見ると、目覚まし時計の鳴る十分前だった。
もう少しだけ、夢を見ていたかったな。
なんだか憂鬱な気分になり、僕は思わず溜め息を吐いた。
たった十分じゃ寝るだけ無駄だ。
そう思い、身体を起こそうとして、ふと気がついた。
僕の服を掴んで気の抜けた顔で眠っている、ルルーシュ。

「だらしない顔……」

さすがに涎は垂らしてないけど、普段の彼からすると想像もつかない寝顔だ。
口、開いてるよ。
なんて締まりの無い寝顔。
それでもルルーシュの顔は綺麗だと思った。
……滅多に出来ないし、いい機会だ。
僕は十分間ルルーシュの顔をじっと見て過ごすことにした。
いつもは見つめると逸らされてしまう顔。
だから、こうやって遠慮無しに見つめてみると、いつもと印象が違う。
まず、随分髪が伸びたな、と思う。
前はもう少し短かったのに。
いろいろあったから、僕も君もそんなことに気付かなかったのかも知れないね。
どっちの長さでも、僕は好きだけど。
あ、長いといえば、

「睫、長いよね」

独り言を呟きながら、ルルーシュの目元をなぞる。
触れるか、触れないかくらいの距離で。

「ん……」

あ。
ルルーシュが僅かに声を上げ、僕は急いで手を引っ込めた。

「ごめん、起こしちゃったかな」
「んー……?」

そう問うと、僅かにルルーシュが目を開けた。
禍々しい、でもどこか美しい赤い瞳。
今はコンタクトをしていないから。

「まだ時間じゃないんだ」

どうやらまだ半分眠っているみたいだ。
ルルーシュは重い瞼と必死に格闘していたものの、僕の言葉でそれは諦めたらしい。

「なんだ……そうか……」

ルルーシュはまたふにゃふにゃした顔に戻ってしまった。

「でも後十分しか……」

僕の言葉聞く前に、ルルーシュはもうほとんど夢の世界に戻ってしまっていた。
少し、悪いことをしてしまったかもしれない。
下手に起きると、後で起きる時に余計に辛いから。
僕はふぅ、とまた溜め息を吐いて天井へと視線を移した。

「おい」
「え?」

驚いて天井から声の方へ視線を戻すと、でんっと僕の肩にルルーシュの頭が乗っていた。
重……くはないけど、滅多に無いことだから、これは夢なんじゃないかと疑った。

「寒い」

そうだね、寒いね。
……なんて返したら多分殴られるんじゃないかな。
分かってるよ。
これでもルルーシュは精一杯甘えてるんだってことくらいは。

「お前は俺の騎士だろう、なんとかしろ……」

こんな傍若無人な甘え方する人間なんて、他にいないと思う。
それでも、それがたまらなく愛しいと思う僕は重症だとも思う。
別にそれでも困りはしないけど。

「はいはい、『イエスユアマジェスティ』」

適当に形式上の返事をして、僕はルルーシュの身体を抱きしめた。
少ししてから、ルルーシュもおずおずと僕の背中に腕を回してくる。
自分からそうすればいいのに、素直じゃない。
そこが可愛いんだけど、なんて顔が緩む僕は重症どころか手遅れかもしれない。

「スザク、」
「何?」

ルルーシュは続きを言わない。

「ルルーシュ、何?」

しょうがないから、もう一度聞き返してみた。
返事がない。
それどころか、小さく寝息さえ聞こえる。

「……気になるなぁ」

何を言おうとしたんだろう。
『好き』、とかだったらいいのに。
別にそういう言葉を聞いて安心したいわけじゃないんだけど。
たまには言ってくれないと寂しいかな、とも思う。
まあ、そこで言ってくれないのがルルーシュなんだけどさ。
顔だけ動かして時計を見ると、もうアラームの一分前だった。
もう少しだけこうしてたい。
僕は手を伸ばし、時計の針を五分戻した。
アラームの時間を遅くしないのは、後でルルーシュに言い訳する時のため。

「あと五分だけだから」

時計を元通りの場所に置いて、僕はもう一度ルルーシュを抱きしめた。



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