僕が目を閉じると、真っ白な空間にたどり着いた。
夢の中、と呼ぶのかどうかは分からない。
頭の中、と呼ぶのかも。
とにかく僕は真っ白な空間にぽつりと立っていたわけだ。

「なにもないや」

僕はそう呟いた。
声は反響することもなく、広い空間に吸い込まれるようにして消えた。
壁がどこにもない、目が痛いほどの白い世界。

「あ」

床も、ないや。
僕は立ってるのかな。
それとも飛んでるのかな。
どっちでもいいか。
僕はとにかくそこから進もうと思った。
足を動かす。

「あれ、」

しまった。
真っ白な空間だから、景色もずっと変わらないんだ。
僕は進んでいるのかな。
それとも、ただ足踏みしているだけ?
考えても分かりそうもなかったので、僕は服の一部を千切ってそこに置いた。
もう一度足を動かす。
布切れは離れていく。
よかった、進んでるみたいだ。
だけど、僕はどこに向かっているんだろう。
どこに行こうとしてるんだろう。

「ん?」

向こうに何かが見えた。
人のようだ。
僕はそっちに向かって走った。
誰かが蹲っている。

「…………」

僕が傍に行くと膝を抱えていた誰かが顔を上げた。
『僕』だった。
『僕』はこちらを向き「やぁ」と言って笑った。
何が「やぁ」なんだろう。

「こんなところで何をしてるんだい?」

僕は聞いた。

「別に」

と『僕』は答えた。

「こんな、なんにもないところで、ただ座ってるだけ?」

僕は驚いてもう一度訪ねた。
『僕』は頷いた。
お腹も減らないし、喉も渇かないんだってさ。

「こんな退屈なところにいたら、気が狂いそうだ」

こんなところで延々と座ってるくらいなら、死んだほうがましかもね。
『僕』はその言葉に笑った。

「死なないよ。死ねない、のほうが正しいかもしれないけど」

どういうことだろう。
もしかして、『僕』は退屈すぎてもうとっくに気が狂ってしまったんだろうか。

「『僕』は絶対に死んではいけない、と命令されているんだ。
それには逆らえないから、『僕』はこうやって生きているんだ」

なんだそれ。

「命令って、誰に」
「君の……ううん、僕の友達だよ。『僕』の友達でもある」

僕の友達?

「友達に命令されたから、君……『僕』は死なずに生きてるのか?
こんなところでただ座っているだけなんて、死んでいるのと同じじゃないか」

僕がそう言うと、『僕』は少し考えて言った。

「そうだよ。『僕』は死んでいたんだ。
死ねないから、死んだふりをしていたんだ」
「死体は喋らないよ」

僕は笑った。
『僕』も笑った。

「『僕』は死にたいの?」
「死にたいよ」
「僕もだ」

僕は丁度、手に銃を持っていた。
何故かは分からないけど、持っていた。

「これで『僕』を撃とうとしたら、どうなる?」
「『僕』の身体が勝手に動いて、逃げるか僕を殴るかして、勝手に死なないようにするよ」

へえ。

「じゃあ、例えば逃げられもしないし僕を殴れもしない状況なら」
「どうにもならないんじゃないかな」

ふーん。

「なるほどね」

僕は頷いた。
『僕』は笑っていた。
そして、何か言おうとした。
だから僕は撃った。
『僕』の頭を。

「本当だ。反応する暇もなかったんなら、死ぬんだ」

頭の吹っ飛んだ『僕』はしばらく痙攣していたけど、すぐに動かなくなった。

「あはは」

そうだ、死ぬんだ。
不死身なんかじゃないんだ。
自分で死ねないなら、誰かにこうやって殺してもらえばいいんだ。
なーんだ、簡単なことじゃないか。
僕もここで待てばいいんだ。
誰かがやってきて、こうやって僕を殺すのを待てばいいんだ。

「…………」

そいつはすぐにやってきた。
【僕】だ。

「あ、」

駄目だ、【僕】、それじゃ駄目なんだ。
【僕】は、僕を殺そうとしていた。
僕にはそれが分かってしまった。
だから、僕の身体は勝手に動いて、【僕】の攻撃をかわした。
そして、僕は持っていた銃で【僕】を撃った。

「しまった」

死ねなかった。
また死ねなかった。
なんてことだ。

「…………」

その後すぐに[僕]と<僕>が来たけど、どちらも僕が殺してしまった。
二人ともうまくいかなかった。
僕を殺してくれなかった。
僕は死にたかったのに。
自分で死ねたなら。
僕は頭に銃を当てて引き金を引こうとした。
けど、出来なかった。
爪を手首に立ててみようとした。
けど、出来なかった。
なんてことだ。

「あはは」

どうやっても僕は死ねなかったので、僕は僕を殺すことにした。

「あはは」

僕はここでこれから来る僕を殺し続けよう。
そして、彼らを救ってあげよう。
うん、そうだ、そうしよう。

「あはははは」

僕は遠くに見える人影に向かって銃を撃った。
当たった。避けられなかったらしい。
僕に気付いてなかったのかな。
今度の僕はなんてどんくさいんだろう。

「あれ?」

けど、違った。
それは僕じゃなかった。
そこに倒れていたのは、黒い髪の少年だった。

「ルルーシュ?」

それは、僕の友達のルルーシュだった。
ルルーシュはさっき僕に撃たれた傷を押さえながら起き上がった。

「俺は、ただ……お前に謝りたくて……」

呼吸が荒い、血も止まらない。
このままだと、死んでしまうかもしれない。

「お前に、あんなギアスをかけたことをあやま」

僕は撃った。
ルルーシュが言い終わる前に、撃った。
唸り声を上げてルルーシュは膝を付いた。

「違……スザク、俺はただお前に……」
「言い訳はいいよ、ルルーシュ」

僕はルルーシュの額に銃を突き付けた。

「僕がここで、何をしていたか分かる?」

ルルーシュは押し黙っていた。
僕は後ろを見た。
『僕』と【僕】と[僕]と<僕>の死体が転がっていた。
死体はなにも言わない。
しかし、それを見たルルーシュには何か伝わったらしい。

「すまない」

ルルーシュが言い終わるのと、僕が引き金を引いたのは同時だった。
『僕』と同じようにルルーシュの頭が吹っ飛んだ。

「お前のせいだ」

僕は引き金を引いた。

「お前のせいだ」

何度も何度も引き金を引いた。

「お前のせいだ」

弾が無くなるまで、僕はルルーシュを撃ち続けた。

「お前のせいで、」



僕は目を覚ました。

「またか」

僕はまた、あの白い世界に行っていたらしい。
最近はあの夢が続く。
本当に困ったものだ。

「あ、」

朝食を食べる際に果物ナイフが目に入ったので、ふとそれを首に当てて動脈を切り裂こうとした。
けど、出来なかった。

「あはは」

なんてことだ。

「またか」

やっぱり僕は死ねなかったので、僕は今夜もあの世界で僕と彼を殺すことにした。



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