目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
当たり前じゃないか、と思う。
いや、確かに当たり前で、それだけなら何の変哲も無い朝だった。
妙に身体が軽く、肌寒いことを除けば。
俺は寒さのあまりシーツを手繰り寄せ、慌ててそれに包まる。
頭だけを出して周囲を窺うと、少しずつ自分の置かれている状況が分かってきた。
――なんだ、これは。
ここは、俺の部屋じゃない。
まさか拉致されたのか?
誰に?何の目的で?
その時、ぽん、と背後から肩の辺りを叩かれた。

「っほわぁあああ!?」



変態さんと一緒



「わっ!?」

俺の声に驚いたのか、手の主が後ろに一歩引き下がった。
俺はその声が誰の者か考える暇も無く、シーツを投げ捨てながら起き上がり、男を睨んだ。
ここに俺を連れてきた張本人と思われる男を。

「……おい」

その男の固まった笑顔を見て、俺は眉を寄せた。
同時にへにゃりと肩から力が抜ける。
どうやらただの悪趣味な悪戯だったようだ。

「どういうつもりだ、スザク」

俺を拉致した張本人らしいスザクは、苦笑しながら頭をかいた。
しかしその顔はすぐに、別の表情に変わる。
覚えのある顔だ、と俺は身構えた。
こいつがこんな顔をする時は、ろくなことが起きないからだ。
また何かとんでもないことを考え付いたのだろう。

「うん、やっぱり僕は間違って無かったみたいだ」

スザクは腕を組んで自信たっぷりに頷いた。
間違って無かった?何がだ?と俺は聞き返す。

「やっぱり君に似合うな、と思ってさ。
サイズもぴったりだし」

似合う?サイズ?
俺はくしゃみを一つして、その時初めてこの肌寒さの訳を知った。
なんだ、これは。
頭が真っ白になっていく。
おそらく顔は青くなっているだろう。

「これは……」

俺はシーツを全て隅に寄せた。
そして自分の格好を改めて確認する。
何故か、下着姿だ。
しかもいつものやつじゃない。
女性物の、下着姿、だ……。

「おいスザ――っ!?」

抗議のために声を張り上げようとしたが、それは叶わなかった。
ベッドに強かに頭を打ち付け、一瞬呼吸が止まる。
それでも俺は瞬時に理解した。
スザクに押し倒されたのだ。

「ごめんね、頭打った?」

そう言いながらまるで子供をあやす様に、スザクが俺を頭を撫でた。
いやそういう問題じゃないだろう、と頭の中で冷静に考える。

「今日はバレンタインデーみたいに、チョコの代わりに下着を送るんだってさ」
「誰に聞いたんだそんなこと」
「ミレイ会長」

スザクはにこにこしながら俺の頭を撫で続けているが、俺は今すぐここから逃げ出したい気持ちで一杯だった。
こんな姿を見られるなんて、人生最大の恥だと言っても過言じゃないかもしれない。

「そんな行事をわざわざすることないじゃないか。
こんな物まで買って来て……」

そう言いながらスザクの身体を押しのけようとするが、ビクともしない。
何のつもりだ。

「えー、だって僕が見たかったんだもん」

……見たかったんだもん、じゃないだろう!
お前の場合、見るだけじゃ済まないから俺はこう言ってるんだ!
そう言ってやりたいのに、抗議などさせないという様にスザクは笑っている。
少し身体を触られた位で抗議の声も出なくなる自分が情けない……。

「もっとよく見せてよ、ね」
「なっ!やめ……っ」

不意に降って来た声に反論するが、そもそも力でスザクに敵う訳が無いのだ。
俺は抵抗も虚しくあっと言う間に脚を開かされてしまった。
内股をなぞる視線がちりちりと痛い。
くそ、見るな。

「そんなに恥ずかしがらなくても、すごく可愛いよ?」

羞恥のあまり涙さえ滲み出した俺とは対照的に、スザクはけろっと笑っている。
それがたまらなく悔しかった。
こうなったら、反撃に出てやる。
俺は決心した。
このまま、訳のわからないまま流されてたまるものか。
上手く働かない頭を無理矢理動かし、俺は考える。
力では敵わない。
なら、どうすれば?

「――スザク」

俺は一つの結論を出した。
この格好を逆に利用してやるのだ。
今一瞬晒す恥と、この後しばらく晒し続ける恥。
どちらがマシかは明白だ。

「そこまで見たいなら、もっと近くで見せてやってもいいぞ?」

そう言って俺は自ら脚を広げて見せた。
自分で言ってて鳥肌が立つが、スザクはノコノコ釣られたようだ。
ふん、馬鹿め!
全ての条件はクリアした、今だッ!

「っ!?」

スザクがジタバタする。
所謂絞め技というやつだ。

「どうだ、少しは懲りたか?」
「ううん、むしろルルーシュの太股に挟まれるなんて幸せだよ!」

…………。
スザクはいい笑顔だった。
強がりだとか笑いを取ろうとか、そういう顔じゃない。
本心だ。

「っこの変態!」

俺は逆に俺の脚をがっしり掴んで離さないスザクを慌てて振りほどき、一発蹴りを入れて部屋から逃げ出した。
全力で蹴ったが、スザクにはまるで効いていない様子だ。

「ルルーシュ!」
「五月蝿い!今更何を――」
「あの部屋ビデオ回ってたからね!」

ビデオ?
ビデオとはつまり。
俺のあんな姿やこんな姿を終始撮影――……。

「――っ!」

俺は再び部屋に戻り、中を見回した。
無い。
そんなものはどこにも。

「嘘だよ、ルルーシュ」

俺が振り向くと同時にガチャリ、と音がした。
スザクが後手に扉のカギをかけたのだ。

「これでもう逃げられないね」

スザクは最初と同じように笑顔だった。
対照的に俺の顔は引きつる。
それでも俺は、何もしないよりはマシだと先程とは別の覚悟を決めた。
――これで、今日と明日の予定は全部潰れたかもしれない。



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