「ルルーシュ、私は酷い奴だな」
本当は分かっていたんだ。
あいつが、残らないことくらい。
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枢木神社からそう遠くない場所に、小さな墓標が並んでいる。
名も刻まれていない二つの墓標に私は花を添えた。
私の隣で、青い目の少女が手を組み、祈っている。
「いいのか?私が二人を殺したんだぞ」
あの時、二人を一緒に死なせてしまったのは自分だ。
私が余計なことを言わなければ、スザクだけでも生き残っていたのに。
「いいんです。
それに、スザクさんがいたほうが、お兄様は寂しい想いをしなくてすみますから」
まだ幼い手で墓標を撫でるナナリー。
幼い彼女を残して逝かせてしまった私を、憎んではいないのだろうか。
「あの時、私はそう思った。
このまま死なせてやった方がいいんじゃないかと。
しかし、お前が……」
「それ以上言わないで下さい。
私は後悔していません。
いいえ、私が止めても、お兄様は死を選んだでしょう」
……さすがは妹、というべきか。
まったくその通りだ。
ルルーシュは確かに死を選んだ。
それは正しかったんだ。
私はあの日、同じように檻の中にいたスザクを助け、ルルーシュの前へと引っ張って行った。
別れを告げられるとでも思ったのか、随分と抵抗したが。
ルルーシュも直接話を付けさせられるとは思っていなかったらしく、ため息を一つ吐いた。
「スザク、明日俺は死ぬ」
「そう、だね」
声が震えている。
今すぐルルーシュを連れて逃げ出したいのを必死で抑えているように見えた。
「お前は助かるんだ」
「君を犠牲にしてかい?」
「ああ」
ルルーシュは、自分を犠牲にスザクを救おうというのだ。
大事なのは、スザクが残るという結果。
そこに到る為には自分の死など辞さないつもりらしい。
「そんなことは、認めない。
君を犠牲に生き延びて、僕にどうしろというんだ。
父を殺し、大勢の人々を殺し、さらに君を殺した罪を背負って生きろというのか」
「違う。ナナリーの為だ」
自分が死んだ後に残された妹を支えてやれるのはお前だけだ、というルルーシュ。
ルルーシュは、ナナリーにギアスを使わなかった。
そして敗北を認めた。
そう、ナナリーは敵なのだ。
それなのに、ルルーシュは。
私は先程スザクを助ける時に使用した牢屋の鍵を使い、ルルーシュの隣に立った。
そして一言断ってから目隠しを取る。
その瞳は、揺るぎの無い決意の色をしていた。
「ルルーシュ、何か勘違いをしているんじゃないのか」
そんなルルーシュに、スザクは掴みかかった。
鎖に繋がれ、抵抗の出来ないルルーシュは黙ってされるがままになっている。
無抵抗の相手に、と私が止めようとした時だった。
「僕はナナリーの騎士じゃない。君の騎士だ」
スザクが静かにそう言ったのは。
「僕の仕事は君を守ることだ。
主君を敵から守ることだ。
その僕が、何故君の敵であるナナリーを守らなければならない?
君とC.C.がそうであるように、僕と君も共犯者だ。
僕達はこの世界の敵となった。
僕達は既に、この世界からはじき出されたんだ」
ルルーシュが僅かに目を見開いた。
私も同じように、その言葉に驚愕した。
スザクはルルーシュから手を離すと、もう一度落ち着いた声色で言った。
「僕は、君の騎士だ」
その言葉を聞いたルルーシュは何かを考え込んでいるようだった。
が、突然クスクスと笑い出した。
そんな様子を見て、私とスザクは首を傾げた。
「まったく、主人に掴みかかる騎士がどこにいるんだ」
「いいじゃないか。だって僕達、友達だろ?」
二人は暫くそう言って笑っていた。
そんな相手のいない私には眩しくて、とても羨ましく見えた。
やはり、私は二人が羨ましかったんだ。
二人はひとしきり笑った後、急に神妙な面持ちになり、私は理解した。
ああ、遂に答えを出す時が来たのだと。
「……我が騎士、枢木スザク。
俺は明日、処刑が決定した」
先程笑い転げていた時とは別人で、皇帝の顔をしているルルーシュ。
スザクもそれに答えるように、騎士の顔をする。
「生き延びようと思えばそれも出来るだろう。
だが、それには何のメリットもない。
俺達に残されたのは死に方を選ぶ時間のみだ」
私は、ルルーシュの手に繋がれた鎖を外した。
ずっと吊られていた片腕を振りながら、ルルーシュは続ける。
「俺は、民衆の前で醜態を晒すなどごめんだ」
なるほど、ルルーシュらしい言葉だ。
「二人は脱獄したが逃げ切れず、追っ手に殺される前に自決……といったところか?」
「ああ、お前なら俺の居場所が分かるだろう。
死体の片付けはなんとかしてくれ」
「最後まで面倒ごとを押し付ける奴だ」
確かに私はギアスを持つ者の位置を感知出来る。
しかし、その能力が無くとも二人の行く場所くらい見当がつく。
「俺はここから逃げ出して、誰にも見られない場所に行こうと思う。
そこで自分に決着をつけるつもりだ。
お前はどうする?
ここに残るか?それとも――」
「先も言った通り、残るつもりはありません」
ルルーシュは、嬉しそうでもあり悲しそうでもある……そんな顔で笑った。
そして、手を差し伸べながら言った。
「俺と共に死んでくれるか?」
本当に困ったような顔をしていた。
手を取って欲しくもあるが、取って欲しくない気持ちもある。
その曖昧な手を、スザクはしっかりと握って言った。
「イエス、ユア・マジェスティ」
「それから、二人を逃した私は隠れて二人が死ぬのを待った。
やがて、二人は動かなくなった。
それが……この場所だった」
「どうして私にその場所を教えてくれたんですか?」
ナナリーが青い瞳を伏せながら、問う。
さあな、と答えて私は墓標の向こうを見つめた。
かつて戦いの舞台となった富士山が見える。
私は、これで本当に正しかったんだと信じたかった。
そんな私に、ナナリーは真剣な顔で言った。
「C.C.さん、お願いがあります」
その声は、ルルーシュと似ていた。
強い決意を秘めた者の声だ。
「私にもギアスをいただけませんか」
私は思わずナナリーを見つめた。
彼女も、私に強い眼差しを向けている。
「もちろん、お兄様のように人を操る力が欲しいのではありません。
この世界を平和に導く力が欲しいのです。
それに……」
私の手を取るナナリーのそれは、世界を支えるには小さすぎるような気がした。
しかし、ルルーシュと同じ強さを持つこの目なら、信じる価値はあるかもしれないとも感じた。
「お兄様が叶えられなかったあなたの願いを、私が叶えてあげたいんです」
……私の願いを叶え、世界を平和にする為に自分の身を削るというのか。
「そうだな、考えておくよ」
すぐに返事を返せそうもない。
ルルーシュが守ろうとしたこの子の事を、私も守らなければならない。
本来ならば、ギアスなど存在すべきではないのだから。
さぁっと強い風が吹き、花を少し散らせていく。
ふと隣を見ると、ナナリーがいなくなっていた。
私が後ろを振り向くと、ナナリーは少し離れた場所に立っていた。
小さな崖に似たその場所を見つめるナナリー。
慎重に行動すれば上り下りは容易いが、まだ幼く、車椅子生活をしていた彼女には少し危険だ。
ここに来た時も、私が手を貸した。
まるでルルーシュがそうしろと言ったように感じたせいもあるが。
「この場所、お兄様とスザクさんのお気に入りの場所だったんです。
今までの目が見えない私では来ることが出来なかったんです」
ありがとう、C.C.さん。
そう言ってはにかむナナリーに私は微笑みを返し、頷いた。
「しかし、あの運動音痴のルルーシュがよくここまで登れたな」
「スザクさんがいつも手を貸していたみたいですよ」
……やはり、あいつは昔からそうだったか。
仕方のないやつだ。
「お兄様、ここまで登れるようになったんでしょうか」
「いや、きっと情けない顔で手を借りただろうな」
それを聞いたナナリーは「まさか」とクスクス笑い出した。
「いや、間違いないさ。
その為に二人は手を取り合って逃げ出したのだから」
私は墓標を撫で、空を見上げた。
もうナイトメアフレームが飛び交うことはない、青い空。
戦争の起こらない、この世界。
ルルーシュ、これがお前達の作った世界だ。
世界を裏切り、世界に裏切られたお前達が新しく構築した世界だ。
そしてこの世界は、お前の妹が維持していくだろう。
「ルルーシュ、スザク、お前達は幸せか?」
この世界の外側でたとえどんな絶望が待っていようとも、二人なら乗り越えられるだろう。
孤独な王の絶望的な運命を乗り越え、希望を生み出した二人なら。
何故なら二人は昔も今も手を取り合えば、出来ないことなどなかったのだから。