その黒いプリン型の大きな物体を、臨也はプラムプディングと呼んだ。
イギリスのクリスマスケーキだという。
こんな日に呼び出されたことから考えても、このケーキは三好のために用意されたもののようだった。

「クリスマスに恋人と過ごさないで、僕をお招きいただいてありがとうございます!
僕のためにこんなケーキまで用意してくれて、すごく嬉しいです」
「皮肉を言っても無駄だよ、三好君。
君こそクリスマスに外出の予定ひとつ入ってなくて、家でゲームをして過ごす気だったんだろう?
気を遣って招待してあげる俺にもっと感謝したらどうかなあ」
「クリぼっちはお互い様です。
僕は臨也さんと違ってエオルゼアを旅したり、鎮守府に着任したり、クッキーを焼いたりするのに忙しいんですが」

あらんかぎりの皮肉をぶつけても、臨也は涼しい顔をしている。
もっとも、この程度でダメージを受けるならクリスマスに三好を呼び出したりしないだろう。
結局、どちらもクリスマスに予定が無いことには変わりないので二人はそれ以上、不毛な争いはしないでおいた。

「はい」

切り分けられたプディングが三好の前に置かれる。
プディングの断面にはレーズンやドライフルーツが詰まっているのが見える。
三好がこれを食べるのは初めてだったが、なんとなくレーズンパンのような味がするのだろうと想像した。

「それからこれも、好きなだけ飲んでくれていいよ」

プディングの隣には、日曜日の朝に放送されている戦隊ものの写真が描かれたシャンメリーが置かれた。
何も柄の入っていないタイプもあっただろうに、そこまで子供扱いしたいのだろうか。
三好は閉口したが、いつまでもそうしているわけにもいかない。
臨也が同じように切り分けたプディングを口に運んだのを見てから、三好も一口目を頬張った。

――すごく……レーズンだ。

プディングは、予想以上にレーズンの味がした。
きっと生地にもレーズンの甘味や酸味が染み込んでいるのだろう。
そのレーズン量に驚きはしたものの、味そのものは悪くはない。
もっとも臨也が安物を買ってくるとは思えないので、それも関係しているのかもしれない。

「…………?」

急にプディングをぱくぱくと食べ進めていた三好の手が止まる。

「あれ……?」

気のせいかと思ったがやはり気のせいではない。
いつの間にか目眩に似たふわふわとした感覚に三好は捕らわれていた。
三好は額を押さえて溜め息を吐く。

「また……騙したんですか?」

思い当たる原因などひとつしかない。
三好が臨也をじっとりと睨むと、臨也は肩をすくめて言った。

「なんのことだい?
俺は君に美味しいプディングを食べさせてあげようと思っただけだよ」
「とぼけないでください、何を入れたんですか」

なんだか体温が上がってきている気がする。
そういえば心臓も動悸がしてきた。
今まではなんとも無かったのだから、これはおかしい。
またわけの分からない薬を盛られたのだ、と解釈するしかないだろう。

「酷いなぁ、三好君。
俺は何もしてないよ。
俺が君に薬を盛ったところで何も得しないし、仮に俺が盛るならもっと即効性の、口にした瞬間に昏倒するような薬にすると思わない?」

それでも臨也は自分のせいではないと主張してきた。
日頃の行いのためか、まるで説得力が無い。
臨也はプディングを口に運んでから三好を一瞥して続けた。

「俺は何も入れてないんだけど、このプディング、ちょっとラム酒の味がきつすぎるかなあ。
特に君みたいな子供には」

三好は先程よりも眉間にシワを寄せて臨也を睨む。
まさか、自分がラムレーズンのアルコールで酔っているとでも言うのか。
確かに三好の症状は目眩と動悸くらいなもので、いつかのように意識を失うまでには至らない。
しかし臨也のことだ、わざと効力の弱い薬を盛ってきたとも考えられる。
どちらが真実かなど分かりはしない。
ぼやけた頭では尚のことだ。

「来年は君でも食べられるように、子供向けのサンタの砂糖菓子が乗ったケーキにしてあげるよ」

臨也がそう言って笑うのを、三好は額を押さえた手の隙間から悔しげに見ていた。



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