※2011/2/27に出したコピー本と同じものです。



毛並み 漆黒
性格  こざかしい



「三好君てさ、俺のこと嫌いだよね」
 無感動に呟く声に三好吉宗は顔を上げ、ゲームから向かいに座っていた折原臨也に視線を移した。ますます丸くなった大きな目はまるで、えっ、そうですか? とでも言いたげだ。そんなことを言われるとは心外だ、と思っているのだろう。
 臨也は頬杖と溜め息をつき、三好の手にしているゲームを忌々しげに見た。
「そりゃあさ、仕事がもうすぐ終わるからちょっと待ってて、とは言ったよ。でもまさかそこでいきなりモンハン始められるとは思わないじゃない」
 臨也の退屈そうな声と、画面内でエキサイトしているモンスターの鳴き声が重なる。三好はそこで慌ててゲームに視線を戻した。と、同時に画面の中のハンターが吹っ飛ばされ、痛くもないのに「いてっ!」と叫んだ。
「こっちから呼んでおいて待たせたのは悪いと思ってるよ。そこは謝ろう。でも俺の仕事は終わったんだから、もうゲームで時間潰す必要は無いだろう?」
 少し待ったが返事は無い。おーい、と痺れを切らした臨也が呼びかけた時だった。
「うわっ! ピヨった! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
 三好が今まで聞いたことも無いような素っ頓狂な声で叫び、必死にボタンを連打し始めたのは。
 どうやらハンターが敵の真正面で気を失ってしまったらしい。なんとか回復を試みようとしている三好に対し、臨也は内心「そのまま死ねばいいのに」と毒づいた。
『ミャー』
 焦る三好とは対称的に、猫らしき間抜けな声。そして打撃音の後に続いて、モンスターの咆哮。三好がうなった。
 画面の中のハンターは、三好のボタン連打では無く、同じく画面の中の猫によって救われたようだ。
「よしっ! ナイス、イザヤ!」
「は?」
 何故そこで自分の名が出たのか分からず、怪訝な声を上げる臨也に、軽快なファンファーレが返ってきた。三好は無事にモンスターを倒すのに成功したらしい。
「あ、いえ、臨也さんじゃなくて」
 漸くひと段落ついたのか三好が顔を上げる。未だ意味を理解できていない臨也に、三好は照れたように笑った。
「猫の名前です。好きな名前付けられるんですけど、狩沢さんが強そうだからって静雄さんの名前を付けてたので、僕も対抗してみたんです」
 ちなみに遊馬崎のところには「サイモン」という猫がいるらしい。はたして感心すればいいのか、怒ればいいのか。
「ありがとうございました」
 反応に困っていた臨也に、いきなり三好はペコリと頭を下げた。何のことだか分からず、当然臨也は聞き返す。
「だってネコに臨也さんの名前付けたおかげで助かったし、新しい武器も作れたから。僕も静雄さんにしようか迷ったんですけど、臨也さんにしてよかったです」
「ああ、……そう」
 再び反応に困った臨也だが、三好の無邪気な笑顔に押し切られるように頷いた。三好はニコニコと笑ったままで続ける。
「臨也さんもモンハン買ったら猫に好きな名前付けるといいですよ。そっちの方が楽しいですから」
「例えば、君の名前を付けたりだとか?」
「はい、その時は僕が全力で臨也さんを守ります!」
 意地悪な意味で言ったのに三好に即答されてしまい、臨也は逆に肩透かしをくらった。
「まあ……買う機会があれば考えてみるよ」
「買ったら教えて下さいね。ハンターの僕も猫の僕もちゃんと臨也さんを守りますから」
 臨也は、珍しく返答に詰まった。そんなことを言われるとは思わなかった。なんだか調子が狂う。
 臨也の複雑な思いを知ってか知らずか、三好は満面の笑みを返した。


「あ、イザヤ死んだ」
「……ねえ、やっぱり三好君って俺のこと嫌いだよね」



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