「あのねえ、三好君」

俺が呆れてみせると三好君は悪びれもせずに瞬きをした。
何故俺が呆れてみせたのか、どうやら微塵も思い当たらないらしい。

「君さあ、俺を便利屋か何かと勘違いしてるんじゃない?
生憎俺は薬剤師でもドラッグストアの店員でもないんだよ?」

三好君が自分の顎を手でさする。
彼の質問はこうだ。
「顎にニキビが出来ちゃって恥ずかしいんですけど、どうやったら治りますか」。
あまり目立たないけれど、よく見ると確かに顎の部分に赤くニキビが出ている。



想い想われ振り振られ


「……そもそも、ニキビってやつは様々な原因で出来るんだよ。
単純に顔の皮脂のせいだったり、食べ物や睡眠なんかの根本的な生活のせいだったりね。
ってことは解決策も多岐に渡るわけだ。
いくら情報屋の俺でも、そんなところまで面倒見てあげられないよ」

頑固なことに三好君は微塵も退く気配が無いので、仕方なく説明してあげた。
おぉー、なんて頷いているけど思ってないだろうことは明白だ。
ニキビの生い立ちなんて正直そんなのどうでもよくて、俺が答えるかどうか試すことだけが目的だったに違いない。
それを分かっていて真面目に相談に乗ってあげるほど俺は暇じゃないよ。

「まあでも、なんだっけ。
顎に出来たんだろう?
喜びなよ」

だから、俺は相談には乗らずに三好君をただ観察してみることにした。
あっちが先に俺の反応を伺うような真似をしてきたんだから、俺がそうしたって文句は言えないよねぇ。

「ほら、昔から言うじゃないか。
顎に出来るニキビは誰かに想われてる証拠だ、ってね」

俺の言葉に三好君は物凄く渋い顔をした。
予想通りだけど、そこまで露骨な反応だと傷付くよ。

「…………」

三好君は少し顎をさすって、俺をじっと見つめてきた。
何か皮肉でも浴びせてくるんだろうか。

「今すぐ、僕を嫌いになって下さい」

生憎俺は探偵じゃないから推理は得意じゃない。
まさか三好君がそんなことを言うなんて思わなかったよ。
思わず俺が失笑すると、三好君は不満そうに眉をひそめた。

「嫌いになって下さい、ねぇ。
ちょっと自意識過剰なんじゃない?」

腹を抱えて笑いながらそう聞いてみる。
迷推理にも程があるよ。
俺の言葉を鵜呑みにして、ニキビの原因が俺だなんていう結論を出すなんてさ。

「確かに俺は君を含めた人間を愛してるけど、さっきのはもちろん冗談だよ?
もしもあんな迷信が真実だとしたら、全人類の顎がニキビどころか、腫れ上がっててもおかしくない。
それくらい俺は人間を愛してるんだから」
「迷信かどうかなんて、今のところは分からないじゃないですか」

せっかく迷信だって教えてあげたのに、三好君は子供っぽく唇を尖らせて反論してきた。
簡単に言いくるめられたりしないところは、結構好感が持てる。

「だって臨也さんは僕が好きなんでしょう。
もし臨也さんが僕を嫌いになって、それでも治らなければ、迷信だってことになりますけど」

一理あるけど、頑固な子だなぁ。
そんなに俺に嫌われたいんだろうか。
もしそうなら、そういう受け答えをするのは逆効果だよ。

「じゃあその検証は出来ないなぁ。
残念だけど」

人差し指で、三好君の顎を軽く上げる。
案の定かなり嫌そうな顔で睨まれたけど気にしない。

「だって、俺が君を嫌いになるわけがないしね」

俺がそう言って笑うと、顔を赤くした三好君が悔しそうに呻いた。



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