※オフ本の「nonomori」の中の時系列の話ですが、知らなくても読めます。
簡単にいうと、臨也の取引の手伝いでヨシヨシが女装させられてます。
それは細い細い一本橋を渡る感覚にも似ている。
落ちた時のことを考えると足がすくむ。かといって止まることは許されない。選択肢は二つしか無い。渡りきるか、落ちて死ぬか。
「三好君?」
じっと道路に書かれた白線を見つめていた三好は呼び掛けに応じて顔をあげる。
「どうかした?」
隣では折原臨也が微笑んでいた。相変わらず機嫌が良さそうだ。きっと自分の姿を見て嘲笑っているんだろうな、と三好は冷ややかに思った。
たまたま手に取ってしまった猫の耳のついたパーカー、それにあわせてにコーディネートされてしまったカットソーとミニスカート。ついでに言うなら足元はブーツとオーバーニーの絶対領域だ。こんな格好を見て臨也が――臨也じゃなくても――笑わないほうがおかしい。
「なんでもないです」
三好はぶっきらぼうに返事をし、再び足元に視線を落とす。いつもならそこに無いはずの長い髪が少し邪魔だ。しかし少しだけでも表情が隠れるのは利点かもしれない。
「俯いてないで、前を向いて歩いたらどうだい? 服も着替えて、せっかく可愛いんだからさ」
三好の考えを読み取ったように、臨也は白々しく言ってきた。
臨也は自分の滑稽な姿を笑っているに違いない。顔を上げさせて晒し者にするために言ってるのだ。三好のそんな想像を卑屈だと言う人間もいるだろう。しかしこんな格好をさせられて、その上恋人同士のように手まで繋がされているのだ。三好が男だと分かっていてこの服を着せている臨也を鬱々した気持ちで睨みたくなるのも当然のことだった。
「……次はどこに行くんですか」
三好は臨也の言葉を無視して、俯いたまま足を進める。特に意味もなく足元の白線を踏んで歩いてみた。まるで子供の頃のようだ。いや、臨也に言わせればまだまだ子供のままか。
この白線よりも、もっと細いところを今の三好は歩いている。
三好の歩く細い道は臨也との戦いだ。結末は二つに一つ、この危ない橋を渡りきるか、転落して臨也に永遠に敗北するか。ずっと浮かんだままの臨也の笑みを消してやりたい。自分を子供扱いしている臨也の舐めきった態度を二度と取れなくしてやりたい。そのためにこんな格好までしているのだ。足元を見ていると、嫌でも短いスカートが目に入ってきて舌打ちをしたくなる。
「三好君」
少し強めに繋いでいた手を引かれ、三好はよろけた。慣れないヒールのある靴を履いていたせいもあるだろう。三好は臨也の肩口に顔をぶつけた。
「っ……」
ぶつけたところを擦りながら顔を上げると、三好の歩いていた白線のすぐ脇を車が走っていった。どちらかといえば車側に非があるのだろうが、苛立っていたとはいえ気付かなかった三好も問題だろう。
「だから言っただろう? 前を向いて歩くようにって」
臨也は足を止めたまま、何故か三好の方に手を伸ばしてきた。反射的に身体を強張らせると、臨也は三好の乱れた髪を軽く撫で付け、ついでに顔をぶつけた衝撃で脱げた猫耳つきフードを被せ直してくれた。余計なお世話だと三好は内心毒づく。きっと臨也はそんな三好の反応を楽しんでいるのだろう。
「でも俺も配慮が足りなかったね。女の子に車道側を歩かせるなんてさ」
そう言って臨也は反対の手を繋いできた。露骨に三好の表情が歪む。
「臨也さん」
「どうしたんだい三好君、せっかくの可愛い顔が台無しだよ? 慣れない靴で歩き疲れたかな?」
「……もういいです」
「そう? 疲れたならいつでも言いなよ」
あなたの相手をするのが一番疲れます。
本音を言ってやろうとしたが、臨也への敗北を認めるような気がしたのでぐっと飲み込む。その代わりに、先に歩き出した臨也の踵を踏んでから、知らん顔で三好も並んで歩いた。