「これ、臨也さんに」

五月四日は暇かと問われ、頷いたのが四月の終わりのこと。
いざ当日になると、唐突に帰国してきた三好が箱を持って現れた。
一体なんの用だと臨也が聞くと、三好はにっこりと笑ってみせた。

「今日は臨也さんの誕生日でしょう。
だからお祝いしたくて」

成る程、箱の中身はケーキらしい。
一体何を企んでいるのかは分からないが、臨也はひとまず礼を言って三好を家に上げた。
そして毒味とばかりに露骨に、受け取ったばかりのケーキを切り分け、三好の前に置く。

「何も入ってないですよ」

臨也が何か言う前に、三好はパクリとケーキを食べた。
特に目印になるものも見当たらないシンプルなケーキだったので、初めから疑われるのを承知で買ってきたようだ。
臨也は暫定的に三好の言葉を信じ、同じくケーキを食べた。

「臨也さんにプレゼントがあるんです」

三好が紙袋を手に微笑んだのが数分前のこと。
わざわざそんなものまで用意するとは三好も結構マメだと臨也は思った。

「着けてあげますね。
座ってて下さい」

プレゼントが何かを明かさず、三好は臨也の後ろに回った。
どうやらプレゼントはアクセサリーのようだ。
わざわざ後ろに回ったことからネックレスの類いかと推測出来る。

「……ん?」

と思いきや、三好は頭の上でごそごそ何かをセットしている。
この時点で臨也が抵抗しなかったのは、三好の企みに付き合ってやろうと思っていたからだ。
三好が何をしようとしているのか観察したかった、ただそれだけの理由だ。

「…………」
「出来ました。
臨也さん、似合いますね」

そして今、臨也の頭にはネコミミが着いている。



ねこのきもち



「ねえ三好君。
これはどういうことか説明してくれるかな」
「どういうことって……誕生日プレゼントですけど」

臨也が鏡越しに三好を見ると、三好はいつも通りの表情だった。
彼は本気で臨也にネコミミをプレゼントするつもりらしい。
鏡の中の自分の頭には黒いネコミミが着いている。
臨也は呆れたように溜め息を吐いた。

「あのねぇ三好く――」

臨也の言葉と同時にそれは動いた。
思わず臨也は鏡を凝視する。
まるで臨也の溜め息に連動するかのように、ネコミミがくったりと垂れたからだ。

「ただのネコミミじゃないですよ。
この間出たばっかりの、脳波で動くネコミミです」

得意気に三好が語る。
そんな商品が発売されたことは臨也も知っていた。
しかしまさか自身が装着することになるとは思ってもみなかっただろう。
臨也のことは無視して、三好が説明書を読み上げる。

「えーと。
リラックスすると耳が垂れて、逆に集中すると耳が立つみたいですね」

今のは溜め息を吐いた結果、リラックスしたとみなされて耳が垂れたらしい。
まったく、とんでもないものを持ってきたものだ。
やはり三好は良くも悪くも面白い人間だと臨也は改めて思った。

「あ、もうちょっと着けてて下さい」

もういいだろうとネコミミを取ろうとしたところで、三好に止められた。
いつまでもこんな姿をさらしているほど酔狂ではない。
無視してネコミミを取ってもいいが、三好が妙に愉しげに笑っているのが気にかかる。
ネコミミ属性でもあるのだろうかと、臨也は馬鹿にするように笑って思ったままを伝えた。

「臨也さんが僕との会話に集中してるのが実際に目で見られて、楽しいからですよ。
ネコミミが似合うなあって思ってたのも事実ですけど」

臨也は自分の頭の上に触れた。
ネコミミはぴんと立っている。
立っているのは集中している時だと言ったか。

「当たり前だよ。
人の誕生日に平気でネコミミを送るような相手と、気を抜いて会話なんか出来るわけが無いだろう?
しかもただのネコミミじゃなくて、考えが読めるネコミミなんて。
一体俺をどうしたいのか知らないけどさ」

臨也が毒づいても三好は平気な顔をしている。

「別にどうもしません。
していいならしますけど」
「嫌な予感がするからしなくていいよ」

それどころか目を丸くして逆に迫ってくる始末だ。
口が減らない、と臨也は自分を棚に上げて思った。

「…………」
「……なにかな?」
「いえ、臨也さんも照れたりするんだなぁって思って」
「はぁ?」

そういえばまだネコミミを取っていない。
今度こそ床に叩きつけてやろうと臨也が手を触れると、ネコミミは集中しているというよりは緊張しているかのように、ぴんっと反り返って立っていた。



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