「静雄さーんっ!」
「うぉっ!?
誰だ……って三好か!」

一ヶ月ぶりくらいに池袋を訪れると、丁度仕事帰りらしき静雄さんを発見した。
直接会うのは久しぶりだしちょっと驚かせる意味もこめて後ろから抱きついてみる。
静雄さんは一瞬敵襲かと思ったらしいけど、ちゃんと僕の仕業だと気付いたみたいだ。
振り向くなり、頭をぽふぽふ撫でてくる。

「おう、久しぶりだな。
いつ着いたんだ?」
「ついさっきです。
これくらいの時間に着けば静雄さんの仕事も終わるかと思って」

静雄さんにはあらかじめ帰国する旨を伝えてある。
こないだ電話で伝えた時は久しぶりに会えるって喜んでくれたっけ。
実際、静雄さんはやたらと頭を撫でてくるし。
……でもあんまり久しぶりって実感は湧かないな。
なんせ僕と静雄さんは恋人同士で、毎日のように電話をしてるからだ。
いわゆる遠距離恋愛というやつだけど、池袋にいた時と変わらず関係は良好だ。
わざわざ会いに来るまでもないくらいに。

「でもよ三好。
今日は急にどうしたんだ?」

そう、前に会ったのだってつい一ヶ月前だ。
わざわざ週末を使って会いに来る必要もない。
なのに、僕は何故帰国したのか。

「静雄さんに会いたかったから。
……それじゃ駄目ですか?」

そんな恥ずかしいことを言いながら、静雄さんの服の裾をぎゅっと握ってみる。
狩沢さんがこうしろって言ってた。
……実際僕も静雄さんに会いたかったから、嘘はついてない。

「い、いや、駄目じゃねえけどよ……。
あー……俺もお前に会いたかったしな」

見上げた静雄さんは真っ赤になって目をそらしていた。
毎日話してるのにそう言ってくれると嬉しいし、こっちも照れる。
だけど、今日は照れてなどいられない。
だって今日は特別な日だ。

「静雄さんって、今日誕生日なんですよね?
おめでとうございます」

今日は静雄さんの誕生日。
だから僕は静雄さんにプレゼントを直接渡すために帰ってきたんだ。

「お?
……あ、そうか、そうだな。
いやー……あんまり祝わってもらえねえから忘れてたな。
……ありがとな」

静雄さんは面白いくらい挙動不審になってから、満面の笑顔を返してくれた。
それを見ると、ほんとに直接会いに来た甲斐があったと思う。
もっと喜んでほしくて、僕はプレゼントを渡すことにした。
狩沢さんが考えてくれたプレゼント。

「……静雄さん、誕生日に食べたいものとか無いですか?
例えば『み』から始まって『ね』で終わるものとか……」

僕は真っ赤になりながら、上目遣いで静雄さんを見た。
狩沢さん曰く、これが最高のプレゼントだそうだ。
本当かどうかは知らないけど、もしもそれで静雄さんが喜んでくれるなら……!

「……!」

食いたいもの?とハテナマークを浮かべていた静雄さんが急にハッとした表情を浮かべる。
どうやら僕の言いたいことを察してくれたらしい。
恥ずかしくてもじもじしている僕の頭を撫でながら、静雄さんが嬉しそうな顔をして言った。

「そうか、ミネストローネか!」

……逆にそれが出たのが凄いと思う。
確かに『み』から始まって『ね』で終わるけどさ……。
何故か静雄さんは勘違いしたまま、僕の手料理が食べられるとはしゃいでいる。
狩沢さん、こんな時どうすればいいですか。

「あの、静雄さん?
ミネストローネでいいんですか?」
「いいも何も、俺は三好がくれるんならなんでも嬉しいに決まってんだろ!」
「あ、はい……ありがとうございます」

嬉しいんだけど、なんだろうこの虚しさ……。
今更誤解を解くことなど出来ず、僕は何故か作ったこともないミネストローネを作ることになってしまった。
幸いネットの簡単レシピのおかげで味は上々。
静雄さんは褒めてくれたけど……なんか複雑だ。



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