「君くらいの歳の子ってさ、ミルクティーとか好きだよね」

僕の前にはティーカップになみなみと注がれた紅茶がある。
向かいに座ってる臨也さんが出してくれたものだ。
その言葉に対応するように紅茶は白く濁っている。
別に好きなわけじゃないと思うけど、と僕は首を傾げた。
コンビニでもどこでも、ペットボトルなんかでよくミルクティーが売られてるってだけだ。
缶コーヒーよりお得だし、甘くて飲みやすいから殆どジュースと同じ感覚でみんな飲んでるんだと思う。
コーラとかも好きだけど炭酸が抜けたら美味しくない。
それに持ち運ぶには炭酸が無い方が便利だし。

「ふうん、そうなんだ」

僕がそう説明すると、臨也さんは少し頷いた。
何かを考えてるようにも見える。
たかがミルクティーのマーケティングも情報のうちなんだろうか。

「てっきり背伸びしたい年頃だからと思ってたよ」

臨也さんは僕をちょっと見て、馬鹿にしたように笑った。
確かにコーラよりは例えペットボトルの安物でも紅茶の方がまだマシに見えるかもしれない。
だけど臨也さんから見ればどっちでも同じなんだろう。
たとえブラックコーヒーを飲んだって、臨也さんは僕を子供扱いするだろうし。
どうせ僕はガキですよ、と拗ねたくなる。
それをやったらますます子供扱いされるからやらないけど。

「僕が好きなのはミルクティーじゃなくて、手間暇かけて紅茶を淹れてくれる臨也さんですよ」

だから僕は逆に、満面の笑みを臨也さんに向けてみた。

「……まあ、それはそうだろうね。
タダで美味しい紅茶を振る舞ってあげてるんだからさ」

少しの間の後、臨也さんは呆れたような顔で言った。
臨也さんは僕を「あの親戚のおじさんはお菓子をくれるから好き」って言う子供と同じだと思ってるらしい。
いや、そう思ってると僕に思わせたいのか。
臨也さんは何かを誤魔化してる。
そしてその何かの正体はとっくに分かってる。
そんなことが分からないほど子供だと思われてるんだろうか。
少し心外で、僕は些か語感を強めて反論した。

「波江さんに頼めばいいのに、臨也さんはいつも自分で紅茶を淹れてくれる。
それもわざわざ鍋で、高そうな茶葉まで使ってこんな子供に、だ。
これはどういうことですか?」

口では子供扱いして馬鹿にするくせに、と僕は畳み掛ける。
臨也さんが本当に僕をただの馬鹿な子供だと思ってるなら、こんなことはしない。
臨也さんが僕を利用するつもりで飼い慣らそうとしてるなら、そんなことは言わない。
つまり、臨也さんは言葉と態度が矛盾してるんだ。
何故か、なんて決まってる。

「臨也さんは、僕が好きなんですよね」

僕の推理が終わると、臨也さんは苦々しい表情を浮かべていた。
あんまりにも僕が自信たっぷりに言いきったせいだろう。

「俺が君を好きだって?
いいかい、三好君。
俺はね、」
「人間全部を愛してる、とかは聞き飽きたから言わなくていいですよ」

先回りして釘を刺すと、臨也さんはますます眉間に皺を寄せて口をつぐんでしまった。
予想通りの台詞を言うつもりだったらしい。
急にぴたりと黙る臨也さんの表情は悔しげだ。

「そうやってあまのじゃくな態度を取る方が子供っぽいですよ」
「……生意気な子だね」

図星を指されたのか、臨也さんはうんざりした様子で視線をそらした。
どうせ僕は臨也さんの言う通り子供だ。
子供が子供らしく素直に振る舞って何が悪い。

「大人って面倒なんですね。
素直に気持ちひとつ言えないなんて」

臨也さんは何も言わなかった。
もっと素直になれば可愛げもあるのに。
僕も何も言わずに、臨也さんの淹れてくれたミルクティーを飲んだ。
少し冷めてて苦味があるけど甘くて美味しい、臨也さんを表したような味がした。



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