「あ」

何の気なしに開いた携帯ゲーム機の画面を見て、俺は素で声をあげた。
ちらちら視線を感じる。
ゲーセンの真ん中で一人で突然何か言えば当たり前だ。
大方ゲームで何かあったとでも思われてんだろうな。
俺は改めてゲーム機の画面を見てみる。
仲間内で流行ってて、俺もなんとなくやってるゲームだ。
このゲームは持って歩くだけで同じゲームしてる奴と通信出来るようになってる。
だから人通りの多いところに行く時は持ってくようにしてるんだ。
で、今日は何人くらいと通信してんのか確認しようとして、ある表示に目が行った。

『Eight』

このゲームは通信した相手の名前が表示される。
そこにあった名前は間違いなく見知った名前だった。
そのゲームのキャラクターも一回見たことあるから絶対そうだ。
たまたま最初の方に出てるわけじゃなく、キャラごとの通信履歴も今日の日付に変わってる。
これはもう間違いない。
俺と『Eight』は、どっかですれ違ってる。
今日は日曜で学校は無いし、もちろん俺らの集会だって無い。
ってことは偶然気まぐれに遊びに来たあいつとすれ違ったってことだ。
どっか行動パターン被ってんのかな。
気が合ってるってことだとすると、なんとなく嬉しい。
もう近くにはいないだろうけど、ついつい周りを見渡してしまう。
……もちろんいるわけねーけど。
そうだ、今どこにいるかメールしてみるか。

『今池袋か?
暇だったら合流してどっか行こうぜ』

……いや待てよ。
そもそも何で池袋にいるのを知ってるんだって言われそうだよな。
ゲームで日付更新されたから……っていうのは事実だけど、なんか俺がいつも監視してるみたいになる気がする。
俺はストーカーかよ。
さすがにそれは自分でも引いたので、一行目を削除して送った。

「……早っ」

返事来るまでゲームしてようと思った矢先、メールが即行返ってきた。
メール見るのも打つのも早すぎだろ。
見た目のんびりしてそうだからちょっと意外だ。

『今池袋来てるんだ。
谷田部君は?』

俺も出来る限り早く返信する。
何通かやり取りして、俺のいるゲーセンの近所のハンバーガー屋で待ち合わせることになった。
案外近くにいたらしい。
とはいえ移動してみるとさすがにまだ来てなかったので、二人分の席を確保しておいた。
さて、暇潰しに今度こそゲームでもするか。

「……あれ?」

ゲーム機を開いてみると近くでゲームしてる奴の名前が表示されていた。
それは別にいい、休みだし集まってゲームしてる奴もいるだろ。
しかしそこに表示されてるのは、たった一人で他のプレイヤーが来るのを待ってる奴だった。
名前も、知ってる名前だ。
当然俺はそのキャラのところに行ってみた。
頭の上に『Eight』と名前が表示されてる。
『Eight』はこちらに気付くなり、手を振るアクションをしてきた。
俺はゲーム内ではリアクションせずに、とりあえず周りを見てみる。

「あ、いたいた」
「三好!」

丁度、店の入り口から『Eight』こと三好がやってきたとこだった。
片手に例のゲーム機を持って、画面の中と同じように手を振ってくる。

「谷田部君、今日俺とどこかですれ違ってるよ」

席に座った三好は、まず最初にそんなことを言ってきた。

「通信履歴見たら、谷田部君が今日の日付になっててさ。
谷田部君も近くにいるのかな、って思ってメールしようとしたら、丁度谷田部君からメールが来てびっくりしたよ」

三好がにこにこ笑いながら説明してくれる。
どうやら三好もほぼ同じ時間に同じ行動を取ってたらしい。
だから返信が早かったのか。
ったく、どんだけシンクロしてんだよ!
嬉しいといえば嬉しいけどなんか照れ臭くて、俺は適当な相槌で誤魔化した。

「で、どっか行きたいとこあるか?」

そのままさっさと本題に持ってく。
俺に聞くの?と三好は少し首を傾げてみせた。
はっきり言って俺はどこでもいい。
カラオケでもボーリングでも、三好と行けばなんでも楽しいし。

「じゃ、火山」
「……はぁ?」

不意討ちで現実離れした単語が来て、俺は思いっきり渋い顔で聞き返した。
三好はけろっとして続ける。

「欲しい素材があるんだ。
ほら、谷田部君もせっかくゲーム持って来てるしさ」

あ、なるほどゲームのステージか。
少し遅れて理解した俺を置いて、三好は既に火山に行く準備を進めている。
確かに俺はどこでもいいって言ったけどなぁ……。

「手伝って欲しいんだよ、谷田部君に」

まだ俺が不満そうだったのに気付いたんだろう。
三好はそう言って取り成すみたいに笑ってみせた。
……うん、こいつ時々天然だよな。
それだけで許す自分が情けねぇけど、まぁ仕方ない。

「しょうがねーなー」

気付くと、自分でも呆れるくらいに嬉しそうな口調で装備を整えてる俺がいた。



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