※2015/01/11に出したコピー本と同じものです。



 初夢に三好が現れた。
 夢の中で三好はいつもの白いパーカーではなく、羊の着ぐるみのようなものを着ていた。ふわふわもこもこと手触りのよさそうな生地だ。ツノのところは綿がたっぷり詰まっているようで、ぬいぐるみになっているらしい。全身を真っ白な毛に包んで、三好はニコニコ笑っていた。
 そんな三好の傍らには、おなじくふわふわしたパンダがいた。リアルなパンダではなく、ぬいぐるみのようなデフォルメされたパンダが巨大化した姿をしている。こちらも抱き心地がよさそうだ。
 周囲にも目を向けると、三好とパンダがいる場所は草原だった。これまたリアルなものではなく、何故か幼稚園児がクレヨンで描いたような緑色だった。クレヨンの質感の草原に三好とパンダは不思議と違和感なく溶け込んでいる。
 静雄が一歩近寄ると、向こうも静雄に気付いたようだ。三好とパンダは笑顔で仲良くこちらに手を振った。
 そんな絵本のワンシーンのような夢だった。
……『そうか。平和な初夢で良かったじゃないか』
 セルティはかなり言葉を選んで、そう感想を述べた。
 静雄から初夢に三好が出たと聞いて興味が湧き、詳しく話を聞いてみたのだが、聞かないほうがよかったかもしれない。なんとも返答に困る内容だった。まさかこんな小さな子供の描くような、絵本の中のような話だとは思わなかったのだ。
 この内容も女児が話せば微笑ましいのかもしれないが、目の前にいるのは成人男性だった。
「そうなんだよ。なんかこう、ほのぼのしてるっつーか」
 静雄は先程から、羊姿の三好がどれだけ和むかについて話していた。ひたすらノロケられてるのかと思ったが、静雄は夢の話をしているだけで、自慢だとか他意はないのだろう。
『今年は未年だし、縁起もいいんじゃないか』
 セルティの言葉に、そういう考えもあるのかと静雄が頷く。セルティが手早くインターネットで検索してみると、夢占いにおいて羊というのは安心感の象徴らしい。三好が静雄に安らぎや安心をもたらすという意味に取れる。これは現時点で既に明らかなので、逆説的に、静雄が三好に対してそのように感じているということを表しているのかもしれない。
 三好は静雄にとって、心の安定と平和をもたらしてくれる数少ない人物だ。今年もそれが続くということだろう か。とにかく悪い内容ではないらしい。セルティが静雄に伝えると、静雄はホッと笑みを浮かべた。そして夢の内容を思い浮かべたせいか、静雄までふわふわした雰囲気を醸し出し始めた。
 静雄が平静なのは素晴らしいことだ。特にセルティはそう思う。静雄は本来、物静かで平和な日常を愛しているのだ。それを夢ひとつでもたらすことが出来る三好は、本人が気付いていないだけでかなりの能力を持っていると言えるのではないだろうか。いや、それも静雄が相手だからだろう。もし例えばこれが新羅で、羊の格好をしたセルティが夢に出てきたとなれば「セルティが羊役なら、俺は狼になるしかないね!」とか言い出しそう だ。そうなれば蹴る。
 いつも新羅がノロケまじりにそうするように、例え話に連れ合いを引き合いに出してしまったセルティは、自分もあいつと同じなのか……と軽くショックを受けた。気を取り直すように軽くヘルメットを振ってから、セルティはPDAに自分の思ったことを入力していく。
『白くてふわふわしてるし、そういう意味では羊と三好君って似てるのかもね。もしかしたら、静雄が潜在的にそう感じてるから夢に出てきたのかもしれない』
 セルティの意見に、なるほどなと感心したように静雄が呟く。その顔からは怒りに任せて大暴れしている時の面影は微塵も感じられない。やはり三好のことを考えて和んでしまっているらしい。まったく新羅とは大違いだ。
『そういえば、』
 ふと新羅の顔が浮かんで、以前彼が大型のバラエティショップの話をしていたのを思い出した。新羅が新装開店したその雑貨屋を何の気なしに見に行って、そこで猫の着ぐるみのようなルームウェアを買ってきたのだ。「絶対セルティに似合うよ!」と鼻息荒く。仕方なく一度は袖を通してやったが、新羅がだらしない顔で迫ってきたので、一発殴ったあとはタンスの肥やしになっている。
 もしかしたら、あそこなら羊のルームウェアもあるかもしれない。静雄が夢で見たようなデザインがあるかは不明だが、三好ならそういった類いの服も似合いそうな気がした。
「そりゃいいな。今度三好と一緒に見に行ってみるか」
 セルティの説明で静雄は興味を持ったようだ。ルームウェアだけでなく色々なものがあるようだし、三好は結構そういった雑貨に心惹かれるタイプらしいので、デートスポットとしても期待出来る。
 早速次に会ったときに向かうつもりなのだろう。気合いの入っている静雄に、セルティは心の中で苦笑した。
「もし羊の服があったら……そうだな、一緒にそれ着て昼寝とかしてぇな」
 サングラスの奥の瞳をキラキラさせて静雄がぽつりと言う。逆にセルティは大きな衝撃を受けた。しかしそれを悟られないよう、平常心平常心と自分に言い聞かせながらPDAに疑問を入力する。
『昼寝って……。一緒に寝るってことか?』
「当たり前だろ?」
 今度はキョトンという効果音でもつきそうな顔で静雄が答える。まったく思ってもみなかったことを聞かれたというふうだ。
「羊の着ぐるみの三好がいて、一緒にあったけぇ布団で寝たら幸せだと思うんだよな」
 その言葉にセルティは膝から崩れ落ちそうになる。なんて、なんてピュアなんだ。一緒に昼寝だと。下世話なことを真っ先に考えてしまったあたり、自分はどうやら新羅にかなりよろしくない影響を受けているらしい。
 とりあえず帰ったら新羅を殴っておこう。セルティは物騒なことを固く誓いながら、まだ三好に和みっぱなしの静雄と穏やかなひとときを過ごした。



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