何度も繰り返した説明を、三好は改めて行った。ここにいる四人はダラーズで、中でも門田は新羅の友人だ。別に伏せる必要は無いが、後部座席に座る二人の必要以上の食い付きが目に見えていたので、三好は知り合いが風邪をひいて寝込んでいる、とだけ言った。
「風邪の看病なんてお約束っすよねえ」
「弱ってる時に優しくされると相手もデレちゃったりして!」
 それでも狩沢と遊馬崎は食い付いてきたのだが。
「その知り合い男ですし彼女持ちなんで」
 三好がなんとかそれだけ言うと、二次元における看病イベントの重要性について語っていた二人は一転して「リア充爆発しろ」と言った。
「それでその人の彼女さんと園原さんと一緒に料理を作ることになって、僕と園原さんが買い物に行ったんですけど……臨也さんと静雄さんが……」
「……ああ、あの書き込みな」
「はい……」
 ダラーズである門田達は、もちろんサイトをチェックしている。そこで三好が書き込んだ静雄の出現情報を見たようだ。
 先程のことを思い出して溜め息を吐いた三好に、学生時代から既に慣れている門田は「いつものことだ」と呆れたような表情を浮かべた。
「イザイザとシズちゃんがヨシっちを取り合い……!? 何それ美味しい! 総受け……ううん、逆にヨシっちが完全に左で両手に花のハーレムもアリ……!」
 何故かテンションが上がったらしい狩沢は意味不明な言葉をブツブツと呟いていたが。
 三好は聞かなかったことにして、門田との会話を続けた。
「――タンパク質とかビタミンを取るのが大事だって聞いたんで、それを活かせそうな料理を探したりしてたんですよ」
「あ、それは俺も心掛けてるっす! 大事なイベントなんかは普段の健康管理がモノを言うっすからね」
「確かにな……! いざ当日に風邪ひいて寝込んだら……」
「ひいい、考えただけで後悔の念が襲ってくるっす!」
 遊馬崎の言葉に渡草も全力で同意してきた。対象は違えど、二人は結局似た者同士だ。いや、二人だけでなくここにいる者全員がそうかもしれない。好きなものに心から情熱を注ぐという意味では。
「で? ビタミンってどんなやつを取ればいいの? X? Y? それともZ?」
「……それはツッコむべきですか、それともスルー?」
「ところでヨシプー! 私シズちゃんがキャラソン出したら演歌より真夜中で救世主なほうが似合うと思うんだけどどう? っていうかヨシプーが頼んでみてよ! カラオケで歌って録音して動画サイトにうpって下さいーって!」
「いやいやいや! 色々と怒られるっすよ、それ!」
「いくら僕でも自販機が飛んできて一撃と書いてヴァレンティで死にますから!」
 対象は違えど、愛するものがある者同士、共通する部分がある。よって会話が盛り上がるのは当然といえる。しかし、それにも限度があるだろう。
 なんだかんだで二人の濃い会話についていけてしまう自分ってどうなんだろう……、と三好は思った。



「帝人ーっ!」
 突然背後から聞こえてきた声に、帝人と杏里は振り返る。そこには走り去るワゴン車に向かって手を振り、頭を下げている三好がいた。
「三好君!」
「ごめん二人とも、遅くなって……! ちょっと色々巻き込まれてさ……」
「う、うん。とにかく三好君が無事でよかったよ。急に電話切れたから」
 三好の言う色々、とは一体なんのことか二人には分からなかった。薄々帝人には見当がついていたが、以前静雄に助けられたという杏里の手前、何も言わなかった。
「いきなり呼んだのに来てくれて助かったよ、帝人。後は俺が持つから」
 三好はそう言いながら、帝人が持っていた袋を受け取った。やはり四人分の食材はそれなりに量がある。間に合ってよかった、と三好は安堵した。
「じゃあ僕はこれで……二人ともまた明日」
「はい、また明日。竜ヶ峰君」
「また明日ー」
 帝人は自分の買い物袋を手に、二人とは別の方向へ歩き出す。
「あ、三好君。えーと……ありがとう」
 その間際に、帝人が小声で照れたように言った。なにかいいことがあったのだろうか。三好は笑顔を返し、ぶんぶん手を振って帝人を見送った。



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