「今日さ、谷田部君ち泊まっていい?」

ふとゲームから目を離した三好はそんなことを言った。

「……えっ?」

それに答えるのに数秒固まってる間に、気付いたら三好のキャラにボコられてた。

「ほら、もう終電無いしさ。
もちろん迷惑ならネカフェでも行くけど」

三好の使ってたキャラが画面の中で喜んでポーズを決めている。
けど、きっと今の俺はそれ以上に勢いのある勝利のポーズが出来ただろう。
むしろやらなかった自分を褒めてやりたい。

「いや、迷惑じゃねーよ。
今日他に誰もいねぇし」
「そう?
じゃあ、遠慮無く泊めてもらうよ。
ありがとう」

努めて冷静に返すと、三好はパッと明るい笑顔を浮かべた。
こうして、一つ屋根の下、二人きりで、三好と過ごすことになってしまった。
……やべえ、どうしよう。



空投げ始動猫2〆コン



「おやすみー」
「お、おやすみ」

慌てて敷いた隣の布団で三好が目を閉じている。
三好は風呂上がりで、しかも俺の貸した服を着ている。
それだけの条件で既に俺の心臓がやばい。
その上に三好からは早くも寝息が聞こえる。
無防備すぎんだろ……。
俺の緊張なんて露知らず、三好は気持ち良さそうに寝ている。

「……くそー……」

とりあえず俺は寝顔をチラ見した。
やばい、めちゃくちゃ可愛い。
見てるだけで照れる。
ちょっと開いた口とか、かなりやばい。

「……んぅ」
「!?」

と思ってたら、その口から声が漏れてきた。
びっくりして思わず飛び起きたけど、起きたわけじゃなくて寝言だったらしい。

「んー……」

三好は何か声を上げながら、寝返りをうった。
顔が見えなくなって悔しがる俺は自分でもちょっと気持ち悪いと思う。
ただ、その拍子に布団が蹴っ飛ばされて見えた足に釘付けになってる俺はかなり現金だと思う。
三好、俺こんな奴でごめんな……。
しかし、三好はどうやら寝相が悪いらしい。
早くも布団を蹴り飛ばしてしまってるぐらいだ。

「風邪引きそうだよな……」

さすがにこの時期に腹出して寝てるのは寒そうだよな。
俺は三好の布団を直してやることにした。
いや、別に三好の寝顔を見たいとかそんな理由じゃなくてだな!
……一体俺は誰に言い訳してんだ。
まあいいや、三好の布団を直してやらねーと……。

「…………」

俺が近寄っても三好は気付かずに寝てる。
よし、さっさと直してやろう。

「んにゃ」
「うぉ!?
み、三好……!?」

布団に手をかけたところで、三好にその手を掴まれた。
手を掴まれたまではいい。
次の瞬間、俺は抱きしめられていた。
な、なんだよこれ……。
まさか三好、起きてたのか……!?

「ね……」
「ね?
……ぐはっ!」

焦る俺に、三好は何かを呟く。
まったく聞き取れなくて聞き返すと、何故か俺は三好に殴られていた。
なんで急に……。
ま、まさか……俺が三好の寝顔を見てたからか……!
殴られた頬を押さえて三好を見ると、三好は満面の笑みを浮かべていた。

「……猫……ぱんち……」

そしてそのまま、もう一回寝た。
……今なんて言った?
猫パンチ?
……ああ、そういや三好の得意コンボは相手を掴んで投げてからの猫パンチコンボだったなぁ……。
格ゲーの夢でも見てるんだろうか。
殴られたことに怒るより、三好の『猫パンチ』が可愛かったことにニヤけてる俺はもう駄目だと思う。



「どうしたの谷田部君、その顔」

次の日の朝、三好に俺の顔を笑われた。
昨日殴られたところが赤くなってたらしい。

「あ、分かった。
寝てる間にぶつけたの?
寝相悪いんだね」

何も知らないらしい三好はにっこり笑ってみせた。
それでも真実を伝えられない俺は、苦笑して流しておく。
そして三好に格ゲーに誘われて、あの猫パンチコンボをもう一回ゲームの中で食らうことになった。



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