僕はマフラーに顔を埋めて、ひとつ咳払いをした。
なんだか喉が痛い。
エアコンで乾燥してるから、なんて理由じゃ済まない痛みだ。
向かいの席に座っているおばあさんが嫌な顔をする。
電車の中なんて密室で咳をされたら誰だって嫌に決まってる。
目的の駅に着いて、僕は逃げるみたいに電車を降りた。
明日からはマスクを持ってこなきゃ。
一度意識してしまうと、余計に喉が痛くなる。
間違いなく風邪だ。
そう思うと、なんだか頭が痛い気もしてきた。
病は気から、って本当かもしれない。
気を取り直して、僕はもう一度咳払いをしてみる。
そうだ、のど飴を買いに行こう。

「やあ、風邪みたいだね」

薬局に入ろうとしたところで、知人に声をかけられた。
この人のことを先輩だとは思ってないし、親しくなるつもりも無いから知人で十分だ。
僕は返事の代わりに咳をする。
知人は「大変そうだね」とまったく思ってなさそうな顔で言った。

「もらってあげようか?」

何をですか?
僕が聞き返すと、少し屈んだ知人が僕の肩を掴んだ。
そして、何故か知人が僕の顔に自分の顔を近付けてきた。

「何をって、もちろん風邪だよ」

知人がそう答えたのは、知人と僕の唇が軽い音をたてて離れた後だった。

「風邪は拗らせると命に関わることもあるからね。
いやあ、俺ってなんて優しいんだろう!」

知人は笑顔で一方的に喋るなり、丁度現れた自販機を持った僕の先輩に追われてどこかへ行ってしまった。
一体なにしに来たんだろう。
熱が出てきたのかフラフラする頭で、僕は家に帰った。
帰ってから、結局薬局に行き忘れたことに気付いた。
なにしに行ったのか分からないのは僕の方だった。
あの知人のせいだ。
僕の風邪がうつって、それを拗らせて寝込めばいいのに。
いや、それだと多分「僕のせいで寝込んだ」って言われそうだ。
でも逆にあの知人の無病息災を願うのも、なんか嫌だ。
あの人のことだから、きっと最初からそこまで考えてたんだろう。
唇に触れて先程のことを思い出すと、酷く体温が上がっていくのが分かる。
風邪を拗らせてしまったみたいだ。






三好『――あ、もしもし、臨也さんですか?』

臨也「やあ久しぶり。
珍しいね、君から電話なんて」

三好『はい、お久しぶりです。
……お正月以来ですね』(どよん

臨也「やだなぁ、あれはちょっとしたジョークじゃないか。
まだ根に持ってるの?」(嘲笑

三好『…………』

臨也「ところで三好君。
何か用があってかけてきたんだろう?」

三好『あ、そうでした。
実はこっちで出来た友達に分からない英語の文章を教えられて……。
臨也さんなら分かるかな、って電話したんです』(しゅん

臨也「ああ、そっちは英語が公用語なんだよね。
それくらい自分で調べなよ、翻訳サイトでも使ってさ」

三好『翻訳しても上手くいかなくて……。
こういう時に聞けるのが臨也さんしか思いつかなかったんです』(しょぼーん

臨也「…………」

三好『……駄目ですか?』(捨て犬のような声

臨也(……まあいいか、それくらい。
簡単な文章だったらそれはそれで彼をからかえるし)

臨也「……しょうがないなぁ、三好君は。
メールで送ってごらん?」

三好『!!
ありがとうございます!
すぐ送りますっ!』(ぱぁあっ

臨也「はいはい」

三好『えーと……。
……はい、今送りました!』

臨也「……うん、きたきた。
なんだ、結構簡単そうじゃない。
これを訳せばいいのかな?」(パソコンとにらめっこ

三好『お願いします!』

臨也「なになに?
えーと、主語が犬……メス犬?
いや、ここの形容詞がかかってくるから……。
【この卑しいメス犬のお尻に】、」

三好『…………』

臨也「…………」

三好『……続きはなんですか?』(にこ

臨也「ねえ三好君?
物凄く下品な単語が並んでるんだけど?」(ひきつった顔

三好『続きは?』(にこにこ

臨也「君さあ、絶対意味知ってるよね?」






正臣「ヨシヨシーっvV」(後ろからぎゅーっ

三好「Σわっ!?」

谷田部「!!?」(ガタッ

正臣「…………」(ぎゅぎゅーっ

三好「…………」(困

谷田部「……あの、なにやってんすか、将軍」

正臣「いやぁ、ほら、ヨシヨシってなんか子犬みたいなオーラ出てんじゃん?
ぎゅーってしたくなるじゃん?
谷田部もそう思うよなあ?」(ニヤニヤ

谷田部(そう思うっす、とはさすがに言えない……)

三好「あはは、出てない出てない」(にこにこ

正臣「出てるって。
いい匂いとかするし」(すりすり

谷田部「!!」(羨ましい

三好「くすぐったいよ正臣!
それに、その言い方だと俺が犬用シャンプーの匂いしてるみたいになるよ」(苦笑

正臣「まあでもヨシヨシって何気にいつも石鹸の匂いするよなー。
日常的に爽やかさをアピールするとは侮れないぜヨシヨシ……」

谷田部「え、そうなんすか!?」(超食い付く

三好「えー、今日体育だったから汗臭いんじゃない?」(自分の襟を引っ張りつつ

正臣「いや、もしヨシヨシが可愛い女子高生だったらずっとうなじに鼻を埋めてたいくらいのいい匂いだ」(キリッ

三好「なにそれ、変態みたいだよ。
谷田部君、正臣に何か言ってやってよ」(呆

谷田部「三好はそのままでも十分可愛いっすよ将軍!」(クワッ

正臣「そこかよ!?」



1つ目は比較的甘いのを書こうとして失敗した結果。
その結果2つ目が生まれました\(^O^)/
多分「ひぎぃいらめええ」的な文章を読ませようとしたのだと思われます。



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